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小説
y第4話
月半ば。
中間テストがやっと終わり、高校入ってすぐに何でこんなもんやらなきゃならないんだと文句を言いつつ、どこかホッとした頃。
父と母の親類、友人、知人を招いての食事会、いわば披露宴的なものが開かれた。
と言っても小規模なもので、そもそも思い出なんだからと進めた結婚式も二人、特に母が嫌がってやめたのだから、そんなにハデになるわけもないのだが。

それで今日はその当日。
まぁ広い会場に椅子やテーブルが並ぶ。
椅子の座る部分が畳になっていて おー、凝ってるな ぁ と感心していると、隣の浩仁がテーブルに突っ伏しているのに気付いた。

「浩仁どーした?」
「ダルい〜…」
「まだカゼ響いてんの?あれ2週間くらい前だったよね」
「違うよ〜、なんか皆の視線が痛いのぉー」

皆の視線。確かに分かる。
視線だけで陰で話されていることもだいたい分かりそうなものだ。

『まぁあれが息子さん?』
『再婚なんでしょ?高校生の子供がいるのによく決めたわねぇ』
『やっていけるのかしら』

「とかだろ多分」

浩仁があまりにも自分の思っていることと同じことを口にしたので、少なからず驚いた。

「…だろうけど、あんまり大きな声で言うなよ」
「なんで?」
「こーゆー場では慎むもんなの!」
「ふーん」

運ばれてきた料理を食べながら周りの様子を見た。
どうやら料理は両親の配慮のようで、母がこちらを「静かにしてなさい」と言わんばかりに睨んでいた。
うるさいから他の人より先に料理を持っていくよう頼んだのだろう。


ということで、おとなしく食べることに集中したのだが、こっちは健康な高校生男子だ。
全部食べ終わるのにそんなに時間は要さなかった。

周りの人がメインディッシュを堪能している頃、デザートのレモンアイスシャーベットを口に運びながら浩仁が話しかけてきた。

「食べ終わったら暇になるね…」
「なっちゃうな…」
「どうする?」

どうするも何も、全くする事が無い。
いとこや親戚の女の子でもいれば楽しそうなものだが、両親は揃いに揃って一人っ子だったりするのでそれは望めない。
ため息をついていると浩仁は突拍子の無いことを言い出した。

「帰る?」
「帰るって、出来たら帰りたいけど…無理だろ」
「だよねぇ…」
「…帰りたいけど」
「ロビーに出る?」
「賛成。」

とりあえず喋っても怒られないように広間から出ることにした。
無駄に大きな扉を開け、赤い絨毯の上を歩いていく。
入り口近くの窓際のソファーに腰を下ろして、1つあくびをした。

「疲れる〜」
「つか肩こるー」
「うわ竜也年寄りぃ」
「馬ー鹿ちげぇよ」

ここならアホみたいな無駄な会話も出来る。
こんな調子でずっと話していると、前の方から背の高い、40代後半くらいの黒髪で眼鏡の男がこちらに近づいてくるのが分かった。
男は迷わず浩仁の目の前まで来て、静かな声で話しかけてきた。

「浩仁くん…だよね?おじさんのこと覚えてるかなぁ?」
「えっと…すみません、思い出せなくて…」
「そっかー、残念だなぁ。おじさんね、君のお母さんの友達」

なるほど、多分“君のお母さん”というのは浩仁の亡くなった母親のことだろう。久しぶりに浩仁を見かけて懐かしくなって話しかけたとか、そういう所か。

「あ、母の…」
「あれからあの踏切は行ってないの?」

浩仁の、表情が少し変わったように思えた。

「…い…いえ、命日には……」
「そっかぁ、でもあんな事あったんだもん、行きづらいよねー」
「……」

俺の腕を浩仁は掴んできた。
顔色が、少し青ざめているように見える。

「おじさんね、昨日も行ってきたんだよ」
「…あ、どうも……」
「そうだ、今度一緒に行こうか、その時ついでにお茶もして…」
「……」
「きっと、お母さんも喜ぶ」

浩仁の手に力が入った。
力といってもわずかだが、しがみつくように腕を掴まれているのだと分かる。

男が浩仁の肩に触れようとした時、いっそう力が加わった。

男の手を振り払うように、浩仁の肩に手を乗せ自分の方に体ごと引き寄せた。


「あの…すいません、こいつ気分悪いみたいなんで、今日はちょっと」
「…そうかい、そいつは残念だなぁ」
「竜也と言います」
「久保だ、よろしく」

男はそう言うと、握手も求めずにさっさと立ち去って行ってしまった。
あの冷たい微笑みと言い、話し方と言い、あまり良い気分にさせられない。
握手を求められなかったのは逆に良かったのかもしれない。どこかホッとしている自分がいた。

浩仁に目を落とす。
俺に体を引き寄せられたまま、抱き抱えられているような状態でいて、少し震えている。

「浩仁…」
「ごめん……何も…今は…」
「うん、大丈夫、大丈夫だから、安心しろ」
「……あいつは」
「行ったよ」
「……ごめ…」



何かある、そう何を言わずとも分かった。

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