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小説
y第2話
とうとう引っ越しの日になった。

「おーい、親父!これも持ってくのー?」
「それは…ついでだし持って行こう」
「ぅいー。」


引っ越し屋の手伝いをしながら自分の荷物を整理する、なかなか時間のかかる、しかも体力のいる作業だ。


今は5月の始め。
今年は例年に比べて若干気温が高い。
と、テレビで天気予報のお姉さんが言っていた。

あのお天気お姉さん代わっちゃうんだよなぁ…

笑顔で「他の番組に移りますけど頑張ります!」と言っていたお姉さんが目に浮かび、心の中で呟いた。

「え?何?浩仁」

やばい、心の中だけだったハズが、いつのまにか声に出ていたようだ。

「いっ、いや!何でも!何でもない!」

ため息をついた。
こんなので新しい家族とやっていけるのだろうか。
特にあの、たつやって奴、食事の前にちょっと話しただけで、まだ打ち解けていない。

始めは話しかけてくれたのに、後になって全く会話が無かった。

「嫌われてんのかなぁ……おれ…」
「は?何か言ったか?」
「何でもないから!」

別に、お互い高校生だ。
今更家族ごっこや兄弟ごっこなんて年齢じゃない。
どうせ部活とかで会う時間も少ないだろうし、まともに話すのは休日くらいだろう。
でも、同じ家に住む身としては、やっぱり仲良くやっていきたい。
両親を両親と呼んで、アイツとも兄弟とまでは行かなくても友達くらいにはなっておきたいのだ。

こんな弱気じゃ駄目だ。
友達からはポジティブだけがお前の良いところとまで言われている。
休日で一気に仲良くなろうじゃないか。

「こーじー!浩仁行くぞーー!」
「はぁーい!!」

久しぶりに、アイツに会う。







「これも?」
「あ、うん」

トラックから段ボールの箱を取り出す。
その雑音に混ざって、途切れとぎれの会話がいやに耳をつく。

親父もおばさんも、書類がどうとかで息子二人を置いて出かけてしまった。
今日、俺達が引っ越して来るこの日に、婚姻届やら住所録の書き換えをしたかったらしい。
せっかくの記念日なんだから、と言っていたけれど
それは多分新婚二人にとってだけであって、子供にとってはどうでも良いことでしかない。
しかしまぁ、親も人間だ。
少しは意見を尊重してやろうではないか、という甘い判断をした。結果、こうなった。


気まずい……


ナニを話していいのかさっぱり分からない。
今まで友達を作るのは簡単だった。とりあえず名前を聞いて、こっちでひたすら話してたら自然に仲良くなれた。
でも、今回は別だ。
名前は知ってるし、第一もうすぐ苗字は同じになる、これからずっと一緒に暮らす相手に適当なことは言えない、とにかく得意な状況じゃないのだ。

「部屋こっち、俺の隣だよ」
「あ、うん」

今度は足音と、引っ越し屋のお兄さん達の威勢の良い声しか聞こえない。
だからたまに会話するとものすごくむなしくなる。

「部屋、使いにくかったら言って」
「えっ、いや、大丈夫だよ」

会話は一言ずつしか続かない。

冷たい…わけではない。
照れてる様子でもない。
向こうも緊張しているのだろうか?だったら、こちらから話しかけなければ。
初対面のときは向こうから話しかけてくれたんだ。


「あの…さ…これからよろしくな」
「ん?」

階段を先に登る、そいつは振り向いた。

「よろしく」


優しい笑顔だった。

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