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小説
y第20話
黄色い花を多く頼んだ。
父の好きな色だから。



「じゃあ明日の朝取りにきます」

花屋のおばさんの挨拶を受け流して、店の戸を開けた。
暑い。
店の中の冷房が憎い。
でもそれよりも、この季節が、憎くてしょうがない。

「浩仁のとこと…3日違いか」
「そうだね」
「…」


母が再婚して、初めての父の命日。
毎年、墓前に母子二人で手を合わせに行っていた。
今年は4人だ、父はどう思うだろうか。


「そういえば俺初めてだよ、竜也のお父さんに会いにいくの」
「え?ああ、そういやそうか」
「何て言おうかなぁ、竜也くんには手を焼いております、とか」
「なんだそれ」

俺が笑うと、浩仁も優しく笑った。

「やっと笑った」

夏のせいなのか、足元がジリジリと疼いた。

あの日と一緒だ。



足の裏から熱がせり上がってくるのは。


「…和菓子屋ってどっかあったっけ」

サンダルにするんじゃなかったか。




和菓子屋の紙袋を下げて家に帰ると、部屋には冷房が効かせてあった。

「生き返るわぁぁ〜!!」
「浩仁オッサンぽいぞ」
「…ふん、いいよ俺には今が至福の時!」

嬉しそうに床に寝転がる浩仁を見てこっちも心がほぐれる気がした。
しばらく浩仁を見て笑っていると、階段から足音がした。

「お帰り二人とも」
「あ、父さんただいま」

父さんは紙袋をちらりと見た後俺に微笑んでみせた。

「今日はお昼私がつくるって咲子さんと約束したんだけど、何が食べたい?」
「親父料理できるの!?」
「チャーハンとか食べたいな、俺も手伝うよ」
「お、ありがとう竜也」

台所に行く父さんの後を追って歩いていると、背後でバタバタ足音がした。

「浩ちゃん!!昼ドラ始まる!」
「あ!!もう1時!?」

わーわー騒いでいるのを見て父さんは肩をすくめて見せたので、苦笑いで返事をした。




夏休みの1日1日はゆっくりなようであっという間だ。さっきまで地面を焼いていた太陽も既に沈んでいて、夜の虫の声が庭から聞こえる。
居間で宿題の空白を埋めている間、浩仁と母はテレビでバラエティー番組を見ていて、父さんはビールを片手に夕刊を読んでいた。

「あー、笑ったー!やっぱりあの司会者天才だー」
「お前…宿題大丈夫なのか?今からやっとかないと」
「まだ夏休みは始まったばっかりじゃん、竜也もっと楽しまなきゃ!」
「じゃあ私本読みたいからもう部屋行っちゃうわね」
「おやすみー」
「おやすみなさい母さん」

母が部屋を出てしばらくして、父さんが立ち上がった。

「なんか酔ってきたしもう寝るよ、二人とも夜更かししすぎないようにな」

はーいとやる気のない返事をしてあくびをする父さんを見送る。
居間に自分と浩仁の二人になったので、宿題の量や範囲の話をしていた。
同じような範囲の所は一緒にやろうとか、英語の和訳を浩仁がする代わりに俺が数学を教えるとかたわいもない話を。

テーブルに落ちていた浩仁の頭の影がふっと消え、何だろうと見上げると、飽きたのか伸びをして肩を回していた。

「あ〜勉強嫌いだ〜、今日もDVD見るんだけど竜也も見る?」
「え、いいの?」

突然の誘いに少し驚いたけど、しばらくしてから不安がよぎった。

「ホ…ホラーじゃないよな…?」
「嫌だと思って、今日は歴史モノだよ」
「ああよかった…」
「前に行った映画でホラー駄目なのは十分わかってるから、もう見せたりしないって!」

ほら、そう言って見せてきたのは、なぜかお揃いで買った、見た映画の殺人鬼のマスコットだった。

「携帯につけてんのかよお前!!」
「え?じゃあ竜也はどこにつけてんの」
「家の鍵につけてるよ」
「携帯つけろよー!」

マスコットを振り回して見せる浩仁について部屋へと入った。
普段はプライベートはちゃんと分けようと言うことで他の家族の部屋には入らないため、浩仁の部屋に入ったのもこいつが風邪をひいた時以来かもしれない。

「そこら座ってて」

そう言ってテレビの下の棚を開けてレンタルビデオ屋の袋からDVDを取り出す。
毎日している作業だけあって手つきは馴れたものだ。

「はい再生、っと」
「歴史ってどのへん?」
「幕末だったかなぁ」

映画が始まる前のスポンサーの紹介が思ったより長くて、浩仁と喋るしかなかった。

「明日…お墓参りだから早起きしなきゃね」
「そうだな」
「ねぇ…竜也のお父さんて、どんな人だった?」


映画はなかなか始まらない。


「…あんまり覚えてないけど、優しかったよ」
「…そっか」


浩仁が 竜也はお父さん似なんだね、もちろん母さんも優しいけどさ
と言った。

映画が始まったのに、画面は見ず、なぜか浩仁を俺は見ていた。


「きっと、すごく、優しかったんだね」



いままでこんな話をしなかったからなのだろうか。

涙が、止まらなかった。


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