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小説
y第14話
三人の間に緊張が走った。

「…久保か?」
「わからない…朝は浩仁の携帯からだったし…」
「出るに越したことはないよ、竜也…」
「ああ…」

手が震える。
通話ボタンを押してそっと耳に携帯を当てた。

「はい…」
―今1人か?

ケイとアツシに目をやる。二人も大体の状況は理解しているようだ。

「そうだ、…浩仁は」
―………。

電話の奥で奴がニヤリと笑ったような気がした。

―浩仁君も根性あるね、ここに来てからずっと黙りっぱなしだ。喋っても君の心配ばかりだよ。
「もういいだろう、浩仁を解放してくれ」
―まだ言ってほしい事を言ってくれてないからなぁ…もう少しくらい待ってよ
「…いい加減にしてくれ」

異常だ、でなきゃ誰がこんなことする?
早く助けたいのに向こうに弄ばれるばかりだ。早く、早く浩仁の所へ行きたい。

―ふーん、そういう事言うんだ…。

ドカッ、と重い音が聞こえた。

「な、何…」
―浩仁君、怒られちゃったよー竜也君に。ねぇどうしたらいいかなぁ?
「何して…」
―何か言ってよ…ああ、口塞いでちゃ喋れないか

電話の向こうで何が起きているのか分からず、でも少なくとも恐ろしいことに変わりはない。携帯を持つ右手が冷たくなってきているのが分かった。

―ほら…何とか言えよ!!

またあの重たい音が耳を突き抜ける。

―これだけ痛い目見ているのに、よく悲鳴の1つ出さないでいるな。
「や…やめろよ」
―は?何で
「暴力振るうなんてフェアじゃないじゃないか!」

目の前のケイとアツシが強ばった顔つきをしていた。

―元々フェアでいる気なんて無いよ、浩仁君が悪いんだから
「浩仁が悪い?何言ってんだお前、浩仁は何もしてないだろ!?」
―…君には分からないさ、それにしても…ここまで頑固だともう無駄かな……。いいよ、そろそろ返してあげよう。
「…なら時間と場所を言え、俺が迎えに行く」

良かった。これで浩仁が助かる。安堵が向こうに気付かれないように声を落として言った。

―…浩仁君の昔事故に遭った踏切に、事故が起きた時間にしよう。

…何を行ってるんだ?こいつは。

「ま…待てよ、何だよソレ…それにそんなとこに浩仁を連れていくつもりなのかお前?!」
―分かったね、それじゃ、これ以降は連絡はとらない。後は君次第だ。
「待っ―」

電話はあっさりと切れてしまった。


「竜也」
「………ど…」
「竜也、落ち着いて」
「どうしたら……俺…」

目の前が真っ暗になる。せっかく浩仁を助けられるのに、場所が分からないんじゃどうしようもない。
やはり警察に言うべきか?でもそんなことをしたら浩仁に危害が及んでしまう。

どうしたら、どうしたらいい…!

「竜也、何だって?」

ケイが心配そうに覗き込んでくる。

「か…返してくれる…けど、時間と場所が俺には分からない」
「他の人なら分かるって事か?」
「他の……」

父さんがいる。

でも、浩仁だけじゃなく、父さんにも事故は辛い思い出のはずだ。
やすやすと聞ける事じゃない。それに聞いたら、その理由を話さなきゃいけなくなる。

「父さんが…でも……」
「今、お前は誰を助けるんだ!?」
「アツシ…」
「聞きにくい理由があるのかも知れない、でも、浩仁を助けるよりも大事なことか!?」

ケイがアツシをなだめるように席に座らせる。
アツシが急に叫んで、正直驚いた。浩仁か思い出か…そんなの、もう最初から決まっているのだ。

「父さんの所へ…行ってくるよ」
「うん」
「何か出来ることは?」
「いや…」

席を立ち、友人二人に感謝の意を告げる、今はこれしか言えない、でも。

「ありがとう、もう十分、助かった」

久保を捕まえたいんじゃない、ただ、浩仁を助けたいだけなんだ。
自分一人で大丈夫。

ケイがうなずくと同時に、俺は走り出した。




プルルルル...
―はい
「父さん!?今どこ!?」
―竜也か?どこって…警察だよ、捜索願いを…
「今から行くから!どこの警察署!?」
―南浜署だが…竜也どうしたんだ?
「お願いがあるんだ」
―お願い?
「父さんに直接頼まなきゃダメなんだ、だから…」
―分かった、待ってる
「…うん」


携帯を切りおもむろにポケットへ滑り込ませる。
浩仁を助けるため、今自分に出来ることは、これしか無いのだから。

強く地面を蹴った。



「竜也!」

警察署の前まで行くと、父さんが入り口の近くに立っているのが分かった。

「咲子さんには中で待ってもらってるけど…」
「…うん」
「…お願いって?」

思い出させてしまう。
悲しい過去も、辛かった日々も……
後から襲ってくるであろう罪悪感に、自分は耐えられるのだろうか。
ここまで来て、いや、ここまで来たから。父さんの顔を見ると迷いが出てしまうのだ。
だが、ケイとアツシの言葉が、頭の中に蘇ってきた。

大丈夫


「父さん、殴られる覚悟も、何でも俺はあります」
「え?」
「教えて下さい、亡くなった、浩仁のお母さんについて」
「…」
「分かってます!でも、今俺にはどうしても知らなきゃならない理由があるんです、理由は言えません、でも…お願いします」

浩仁を助けるため、とは言えない。
ただ単に失礼なことを言っているだけの俺を、父さんはどう思っているのだろうか。

「…竜也、顔を上げて」

ゆっくりと下げていた頭を上げる。殴られるんだろう、そう思っていた。でも
次に待っていた感触は、頭に優しく触れるものだった。

「…とう…さ」
「ここまでする理由があるんだろう?数ヶ月だけど、もう私は竜也の父親なんだ、竜也は何も考えずにこんなこと聞かないだろう」
「…っ」
「何でも聞きなさい、力になれるなら」

まだ会って数ヶ月の俺を、こんなに理解してくれている。嬉しくて、申し訳なくて、たまらなくなって、言葉がしばらく出なかった。

少し、
死んだ父を思い出した。

場所も時刻も、惜しみなく教えてくれた。
場所は元浩仁の家から少し離れた、公園の近くの踏切だった。時刻は15:25。

まだ間に合う。

すでに2時過ぎになっている今から、事故のあった踏切までおよそ一時間。


父さんに再び頭を下げた後、踏切へ向かった。

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あきゅろす。
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