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小説
y第13話
浩仁が誘拐された、父さんの友人の久保に。これは一体どういう事だろう。
とにかく、こんな気持ちじゃ学校に行ったって何にもならない。
そう思ったのだが、父さん達は学校へ行くように言ってきた。

「竜也が心配すること無いよ、今日二人で警察に届けてくるから」

顔を青ざめさせて無理矢理微笑んでくれる両親にワガママみたいなことは出来なかった。
でも、一番浩仁の状況が分かっているのは俺なのに、言うことも手伝うことも出来ず、非力さと無力さがつのる。


学校前のバス停に降りると、ケイがアツシの自転車の後ろに乗って、二人も丁度来たところだった。

「おはー竜也ー…」
「おはよう」

せめて学校では普通にしていなくては。笑顔を作って誤魔化した。

「竜也ヘーン!」

アツシが口を尖らせて俺に言った。

「どこら辺がだよ?」
「ケイおかしいと思わねぇ?いつもの竜也ならニケツは危ないとか言って怒ってるだろ、この状況」
「まぁ確かに…」

ケイはそう言うとおもむろに自転車の荷台部分から降りた。運転していたアツシは急に軽くなった自転車に戸惑い前輪が蛇行する。

「やだな、何でもないよ」
「いや、今日の竜也は確かにどっかおかしい」

ケイに詰め寄られて返す言葉が見つからない。

「だから…何でも無いんだって……」
「竜也…」
「何でも無いって言ってんだろ!?」

浩仁の事で頭がいっぱいで友達にあたってしまった。
こんなつもりじゃなかったのに、どうしてこうなってしまったんだろう。

初めて俺に怒鳴られて呆けているケイを俺から遠ざけるように押し退けて、アツシが向かってきた。

「ケイ…アツシ…あの、俺…」

アツシが目の前で手を振りかざす。
殴られる、そう思い目を思い切り閉じて歯を食い縛った。


パシン

次の瞬間周りに響いたのは薄い音だった。

「……?」

殴られると思っていたのに、手で両頬をアツシに挟まれただけだった。

「落ち着け、竜也、何かあったのかどうかくらい、友達なら分かるんだから」
「アツシ…」
「大丈夫だから、俺らに話してよ」

アツシの金髪の揺れる隙間から見える瞳は、まっすぐ俺を見ていた。
奥ではケイもうなずいてくれる。
こんなに真剣でいてくれる友達に、俺は酷いことをしたのか。その思いと浩仁の安否や自分の非力さがぐちゃぐちゃになって、不覚にも目の前が涙で揺れた。

「……っ、浩仁が…、俺どうしたら…」
「浩仁って…お前の兄弟になった奴だろ?」

ちゃんと聞いてくれているのに、返事をしたくても思うように声が出ない。
喋ろうとすると熱くなった目頭が余計熱を増して、涙がこぼれてしまいそうになる。
首を縦に振ってばかりいると、アツシがさっき近くに停めておいた自転車を押して来た。

「とにかく、場所変えるぞ、ここじゃ目立ってしょうがねぇ」

気付かなかったが、校門の手前の人通りの多い所だ。今はまだ少ないがそろそろ生徒が一気に登校してくる時間になる。
ホラ乗れ、と本来1人で乗るべき自転車に3人無理矢理乗る。アツシが立ち漕ぎで重い自転車を進めた。

「お前ら…いいのかよ、学校…それにさっき俺…」
「大丈夫だっつの、1日くらいサボったって」
「そうそう、それに俺さっきの怒ってないし、気にすることないよ」
「それより危機感持つなら竜也からだぜ?昨日お前、6限の英語出てないんだから」

ニッと笑って受け入れてくれる友達に、頭を下げてありがとうと言うしか今の俺には出来なかった。




「マジかよ…」
「やばいじゃんかそれ」

学校から離れたファミレスに入った三人は頭をかかえる。
竜也に事情を聞いた二人は渋い顔をした。

「じゃあその浩仁が捕まってるって知ってるのはお前だけなんだな…?」
「ああ、親に言ったらすぐ警察に言うだろ…そしたら久保に伝わる」
「そしたら…その浩仁が危なくなるかもしれない、ってことか」

あぁ〜 とアツシがため息をついて頭をかかえた。

「もー、どうすりゃいいんだよ〜」
「竜也とりあえず」
「ん?」

ケイが提案をしてきた。
他人の事なのに、真剣に考えてくれる友達の気持ちだけで、さっきより十分救われていた。

「久保のその言い方だと、また電話がかかってくる可能性が高い、とにかく次の電話を待つしかないんじゃないかな?今はこちらに全く情報が無い状態だし」
「う…うん」
「いざとなったら俺達も力になるから、なアツシ」
「え、うん!うん、なる」

二人の気持ちがありがたかった。今はケイの言う通り、電話を待とう。

「あ、それと、俺達浩仁の顔知らねんだわ、顔知らなきゃ探しようもないし、写メとかない?」
「それなら…あったと思う、ちょっと待って」

携帯のデータフォルダから写真を探す。
前に一度、家で親に撮られた写真があった。
俺と浩仁が写っている。確かテレビを見ている時に不意討ちで撮られたものだ。

「これで分かるか?」

向かいの席の二人に見せて尋ねる。
思えば、これが唯一、俺と浩仁で写っている写真だ。初めて一緒に写った写真、これがもしも最初で最後になったらどうしよう。
そう考えるだけで泣きそうになった。

「オッケー、覚えた」
「うん…竜也どうした?」

何とも無いよう装ってたつもりだったが、顔に出ていたのだろうか。

「いや、大丈夫…」

携帯を自分の元に戻し、再び写真を見る。



数秒後、画面が着信の文字を映し出し、非通知の表示が点滅した。

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