小説
y第12話
家に帰って着替えてから、すぐに竜也はベッドに倒れこんだ。
昨日の夜は色々考え事をしてなかなか寝付けなかったのだ。
でも、浩仁とは和解出来たし、とにかく安心したら眠くなってしまって、家に着くなり、竜也は深い眠りに落ちた。
「んー…」
目が覚めると部屋は既に真っ暗で、開けっ放しだったカーテンを手早く閉めてから部屋を出た。
「竜也…」
母と父さんが怪訝そうな、でも不安を隠しきれないといった顔つきで部屋から降りてきた俺を見た。
夕方から寝ていたはずなのにもう8時になっている。
その事を怒っているのだろうか。
「どうしたの?」
「いや…それが…」
父さんが話すのを渋る。
その時俺はある事に気付いた。
「あれ、浩仁まだなの?今日は夕方には帰るって言ってたけど…」
「そ…そうなのか…」
やはり様子がおかしい。ふとテーブルを見ると、浩仁のカバンが置かれていた。しかし見ていてすぐに気付いたのだが、少し汚れている気がする。
あいつは物は大事にする奴だから、めったに無いことなのだ。
「カバンあるじゃん、二人ともどうしたんだよ」
「……」
「…何かあったの?」
母が、もう我慢出来ないと言うように父さんにすがりついた。
「ねぇあなた!もう警察に言いましょうよ!」
けいさ…つ…?
「まだ何かあったと決まったわけじゃないだろう」
「ねぇ、一体何が…」
「浩仁のカバンだけが、庭に投げ込まれてたんだ」
「何かあったのよ…!だって浩ちゃん、そんな事する子じゃないもの、7時以降に帰る時はいつも電話くれるし…」
脳裏に不安がよぎる。
取り乱す母をなだめながら父さんは事情を話してくれた。
なんでも父さんが家に帰った時庭に何かあるのに気付き、それが浩仁のカバンだったと言うのだ。
友達と遊んでいるうちに夢中になってしまっているんだろうと、今日は警察には言わずに浩仁を待つことになった。
でも、今日紹介された浩仁の友達を見た限りそれは絶対にあり得ないだろう。遊びで人に迷惑をかけるような友人には見えなかったからだ。
その夜、夕食は味がしなくて、風呂も入ったのかどうか記憶は曖昧で、布団をかぶっても、いつもは聞こえる隣の浩仁の部屋からの物音が聞こえなかったり、遠くの救急車のサイレンがやけに大きく聞こえて
寝付く事が出来なかった。
やっと眠りについたのも夜中の3時だったと言うのに、目が覚めたのは明朝5時だった。
急いで玄関に浩仁の靴を確かめに行くが、期待とは裏腹に、昨日の夜と同じで浩仁の靴は無い。
「どこ行ったんだよアイツ…」
頭には最悪のパターンがいくつも浮かんでくる。
でも一番可能性があるとしたら……
プルルルル、
突然携帯電話が鳴り、ドキリと心臓が音を立てた。
携帯を開き液晶画面を見る、その瞬間自分の目を疑った。
「浩仁…?!」
慌てて通話ボタンを押し、浩仁と表示された携帯に耳を当てる。
聞こえてきたのはいつか聞いたことのある声だった。
―竜也君だね?
…!久保、やはりあいつだったのか、そう分かった途端、不安と怒りが一度に込み上げてくる。
「浩仁はどうした!?浩仁に代われ!」
―まぁ待て、そんな大きな声を出して、ご両親に聞こえてしまうよ。
「…っ」
静かに階段を上り、慌てて自分の部屋に飛び込み鍵をかける。
「浩仁は無事なんだろうな…?」
―そう怒らないで、話を聞け。
「もし何かあったら、俺はお前を許さない」
―…浩仁君は無事だよ、今のところね。僕の考えは君たちには到底理解出来ないものだろうから、この行動全ての説明も理由も話す気は無いよ。
つまりは浩仁を連れ去った理由を話さないと言うことだ。でも、そんな事は後でいい。今は浩仁を助ける事しか頭に無かった。
「それより浩仁を返せ」
―それは出来ないな、僕がこうしているのも全て浩仁君の責任なんだから。
「何を言ってるんだ!?」
―とりあえず用が済むまではキミのみに連絡を入れてあげよう。他の人に喋ったら、それこそ浩仁君がどうなっても知らないよ。
それじゃあ、と久保は電話を切ろうとした。でもこのままじゃ好転どころか進展すらしていない。せめてでも浩仁の無事を確認したかった。
「…待て!浩仁に代われ、一瞬でいい、他の奴にも言わないと約束する」
―1分経ったら切るぞ。
しばらく電話の向こうでガタガタと物音がした後、一番聞きたかった声が耳の中に響いた。
―……たつや?
「浩仁!大丈夫か!?」
―うん…竜也、俺…
「絶対助けるから!だから待っててくれ!」
―うん、分かった。父さんと母さんは…
「心配してるよ、俺もな、だから…」
―…竜也
「何だ?」
―…ありがとう。
電話はそこでブツンと音を立てて切れた。
身体中の力が抜けて、その場にヘタヘタと座り込む。
浩仁の声はかすれて、疲れているようだったし、大丈夫なはず無い。
でも、生きている、それだけでも救われた気がした。
「……って」
膝をかかえて、そこに閉じた目蓋を押しつける。
「…ありがとうって何だよ……!」
どうしたら良いか分からず、ただひたすら
早く浩仁に会いたい、と思った。
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