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小説
y第11話
教室の窓の向こうに暗い空が広がっていた。
こんな天気だと、暗い気持ちが余計に嫌になってしまう。

「梅雨明けってまだ?」
「7月入っても、しばらくは降るんじゃね」

隣でアツシがどうでも良い事ばかり質問してケイを困らせている。
こいつらはつくづく漫才コンビになれるんじやないかと思う程、あうんの呼吸で息ぴったりだ。

「振り込めサギってオレオレ詐欺のことなの?」
「詐欺だよ」
「んじゃ、今日の竜也が妙に暗いのはナニ?」
「素だろ」

こいつらは…。
友達が気を落としているかどうかくらい見分けて欲しいものだ。

「…素なわけないだろ」
「竜也が!竜也が喋った!ワァーィ!!」
「クララ?それを言うなら立ったじゃあ」
「立ってないしクララじゃないからこれでいいの」

…毎度のことながらうるさいのには困ったもので、
ケイが励ましてくれているのは分かるのだが、アツシはただ騒いでいるだけだ。
それでも、自己嫌悪の無限ループから少しは解放されたのでこいつらのお陰かな、とも思う。

「お前らさぁ、お互い秘密にしてることある?」
「秘密?」
「あるわけないよなぁ?なっ、ケイ!!」

ケイが薄ら笑うさまを見て、アツシがわめきだす。

「嘘だろ!?俺ら親友じゃん!ケイー!」
「よなぁ…お前達にも秘密にしてることの一つや二つあるよな」
「あるに決まってんだろ、むしろアツシに全部知られることの方が怖い」
「ケーイー!!」

こいつらにもあるんだから、俺と浩仁にあって当然か。

そう考えると、俺はなんて馬鹿な奴なんだろう。
あんなガキっぽい真似をして。


「帰るわ、俺」
「まだ6限残ってるけど」
「青葉は今日5限までだから、今から帰ったら丁度だろ」
「青葉学院?それがどうした……」

景気よく動くアツシの口をケイが左手で塞ぐ。

「あーそっか!じゃあ先生には俺から話しとくよ」
「悪いな、熱あるとか適当に言ってごまかして」
「ハイハイー」

ケイはカバンを手にして走る竜也を教室から見送った後、アツシの口元から手を放した。

「なんだよケイー」
「いいか、青葉にはな、竜也の義兄弟がいるんだ」
「ああ、そういやいたね」

うんうんと頷くアツシ、ケイは両手を腰にあて、続ける。

「あの真面目一筋竜也くんが6限を放って帰ると言った」
「うん」
「その前にしてた話から推測して、その義兄弟とケンカか何かしたんだ」
「おぉ!」
「だから急いで帰してやった、俺ってスゴ…」
「名探偵ですね!」

ガツンとアツシの頭が殴られる音は、既に校門を出た竜也に聞こえる事は無かった。




「はぁ…」

バスに乗って南商店街前で降りた。
いつもならすぐ着くバス停が、今日は嫌に長く感じる。

自分と入れ代わりにバスに乗り込む青葉学院の生徒を見て、少し怖じ気付いてしまった。
こんなによく考えないで来てしまってよかったんだろうか…。
しかし、迷ったって始まらないのだ。バス停から上り坂になっている商店街を通り抜け、浩仁の通う学校まで行かなくては、

それで、

俺は……

「竜也?!」

坂を上って平坦な道が続いた脇の店から、浩仁はガラス越しに呼び掛けてきた。

「何、どうしたの?高明って今日まだ授業…」
「浩仁!」

店から出てくる浩仁の腕を引っ張って、入り口から少し離れる。

「昨日はごめん、俺が勝手にイライラして、お前に当たって…ごめんな」
「は?何竜也そんな事言いにわざわざ来たの?!」
「だって昨日お前…」
「怒ったりしてないよ、ちょっとガッカリしただけなんだ」

照れ臭そうに浩仁はそっぽを向いた。

「何も言ってくれなかったから、ちょっとね」
「あ…それは」
「それは?」
「…心配…してたけど、父さんとおふくろが散々言った後だったし…」

はは、と浩仁は困ったように笑った。

「でも何で?」
「昨日学校帰りに見たんだ、お前と知らない男が一緒だったから、誰か俺知らないし…だから」
「あ、あの人?あの人は」

浩仁が名前を言おうとした途端、俺の脳裏にケイの言葉がこだました。
思わず浩仁の口元を押さえて叫ぶ。

「まっ、待て待て!別に何もかも俺に話さなくてもいいんだよ!?秘密にしときたい事は言わずに…」
「ふん…んぐ…ぐ、竜也やめろっ!」

手を無理矢理引き剥がされ一瞬驚いた。

「あの人は紺野さんで映画評論家!ちょっとした知り合い!んで竜也に秘密にしたい事なんてない!あと竜也、ばか!」

一気に言われて頭がこんがらがりそうだ。
つまり、あの人は評論家でただ知り合い、俺に秘密にしたい事はない…

「ばかって何だよ!」
「俺を信じろよ」

ドキッ、と心臓が大きな鼓動を放った。

「信じろったって…俺お前の事やっぱ何も知らないんだよ…」
「それじゃあ、お互い話したらいいじゃん」
「え?」
「なっ!」

何だか、一人で悩んでいたのが嘘のようだった。
あまりにも簡単に解決してしまう浩仁に、羨ましささえ感じてしまう。

辺りを見ると人にジロジロ見られていた。店の中にいる浩仁の友達が、俺を紹介しろと言わんばかりに浩仁に手招きしている。

「い、行こうか…」
「ああ…あ、そうだ浩仁」
「ん?」

「誕生日いつ?」


偶然にも同じ日付だった事に、二人共苦笑した。


ひとしきり笑った後、まだ残るからと言う浩仁と別れた事を、あとになって後悔するとは思っていなかった。

夕方には帰る、ただその言葉を、信じていた。

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あきゅろす。
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