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小説
y第10話
「浩仁…?」

帰りのバスの窓から、妙な光景を見た。
浩仁が、竜也にとって見知らない男と、親しげに会話していたのだ。一瞬勧誘でもされているのかと思ったが、そうでもないらしい。
ちょっとした顔見知りと言った雰囲気だ、でも男は少なくとも50には見えた。
まぁいい、帰ったら浩仁本人に聞こう。
そう思いバスのシートに深く座り直した。





「浩ちゃん、今日はお友達とご飯食べてくるんですって」

夕食の時間になっても帰らない浩仁を気に掛けていると、母が「楽しそうよね」、とでも言わんばかりに教えてくれた。
ふぅん、と答えてみるものの、一抹の不安が頭をよぎる。
あの男…
夕方見かけたあの男だろうか、友達と言うには年が離れすぎだし、まさか何か帰れない事情でも出来たのだろうか。

「浩仁大丈夫かなぁ…」
「やだ竜也ったら、心配してるの?大丈夫でしょ、もう高校生なんだし」

母に笑い飛ばされる。
確かに自分が心配することでもないのだが、少し気にしてしまう。
まだ久保の件は保留のままだし、この間あんな話をさせてしまったのだ、何かあってからじゃ遅い。

「そんなに気にしてたら、嫌われちゃうわよ?」
「え…」
「でもそういう所、なんだかお兄ちゃんみたいね」

からかう母の些細な言葉に、ふと疑問が湧く。

「俺と浩仁って、どっちが年上?」
「…さぁ、でも浩ちゃん、もう誕生日終わっちゃったそうよ」
「へぇ」
「竜也も今年はお祝い出来なかったわね、ごめんね忙しくさせちゃって」

いいよそんな事、笑って母に返事を返す。
また来年しましょうなどと言われ、親の優しさに感謝しながらももうそんな年じゃないのに、と少し困りもした。

そういえば、今日は久しぶりに母と自分の二人でとる夕食だ。
父さんは会社の付き合いでいなくて、浩仁は友達…と食べに行くらしい。
最近あまり話をしていなかったからどうしようか悩んでいると、察してかどうかは知らないが母から話しかけてきた。

「こうやって2人で食べるのも、久しぶりね」
「…そだね」
「竜也、浩ちゃんやお父さんとは……うまくいってる?」
「ん?うん、普通に仲いいけど?」
「それなら良いんだけど」

心配してくれているのだろうか。それが少し照れくさくて、変なおふくろ、と呟いた。
浩仁をかばって亡くなった母親とは、一体どんな人だったんだろう。
仏壇の写真や、父さんが酔っ払った時に聞いた話から考えても、優しくて家族思いな人だったらしい。

「竜也」
「ふぇっ!?」

いろいろ考え込んでいる隙を突かれて、驚いて思わず変な声をあげてしまった。

「な…なに?」

なるべく冷静に演じながら返事をする。

「楽しい?」

笑いかけながら聞いてくる何気ない一言、でも心臓がギクリと動いた。
楽しい、というのは今の、この家族になってからの話だろう。
軽く流せばそれでオシマイの話だが、竜也にはそれが出来なかった。母のその思いの切実さに、すぐに気付いてしまったから。

返事は1つしか無い。

「…この家族になってよかったと思ってるよ、ありがとう、おふくろ」


久しぶりに、母の嬉しそうな顔を、見た気がした。





「竜也、竜也!」

父さんが帰るなり楽しそうに俺を呼んできた。

「あ、父さんお帰り」
「お土産、ロールケーキだってさ」
「ぉお!ありがとう!」

白いケーキ屋の箱を手渡され、思わずはしゃいでしまった。部屋から皆で食べましょうと母が顔をのぞかせる。

「浩仁はまだなのか?」
「え、うん…まだ帰ってないけど」
「浩ちゃん、お友達とご飯なんですって」
「そうか」

それにしても遅いな
そう父さんが言ったのが、9時を回った頃だった。



「ただいまぁ〜」

俺が風呂を出た、丁度10時に浩仁は帰ってきた。

「お帰り、帰り道大丈夫だった?」
「うん、ありがと母さん」
「浩仁、いつ帰るかくらいメールか電話の1つでもしなさい」

父さんは少し怒り気味だが、浩仁はゴメンゴメンと謝っているだけだ。
高校生には過保護な気もするが、そこは親なんだししょうがないだろう。

「俺もう寝っから」

階段を上ろうとした時、後ろから浩仁が呼び止めてきた。

「竜也!」
「ん?」
「竜也も…」

言いにくそうにしながらも、浩仁は聞いてくる。

「竜也も…心配した?」

心配?したさ、でも、親にあれだけ言われてうんざりしているだろうと思った。

「俺が?」

だから

「バカだなぁ、お互い何歳だと思ってるんだ?」

別に良いと思った。

「もう16だぞ?お前しっかりしてるし、心配なんてしてねーよ」





「そっか…」

努めて明るく言っているようだったが、両親に背を向けた浩仁の表情が、どこか寂しげだった。


「竜也…俺……」
「おやすみ!!」


勢い良く階段を駆け上がる。
いろいろ聞きたかったけど、本当は心配してたって言いたかったけど、
もう良いんだ
だって
それは俺の自己満足にすぎないじゃないか。

父さんの持ち帰ったロールケーキは、しばらく冷蔵庫に入れられたままだった。

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