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再び、理事長室
 
 
 テスト用紙盗難事件から一週間後、僕は理事長室に来ていた。理事長であり叔父である古賀 譲二に呼び出されたからだ。


 「熊谷先生には辞職していただいたよ。解雇して警察に突き出してもよかったけれど。大事にはしたくないし、熊谷先生が警察に自首すると言ったから、それを信じようと思う。生徒にとって最善と言えただろう」


 理事長室のテーブルには、北海道から取り寄せたという「酪農チーズプリン」の瓶が山ほど乗っている。
 好きなだけ食べていいというので、好きなだけいただくことにした。僕は自分に不利な解釈はせず、言葉を体面通りに受け取ることにしている。


 「そうですか」
 「また風紀委員会にはお世話になってしまったね。何かお礼をしなくては……」
 「大丈夫です。僕が代表して受け取ります」


 瓶型の容器を山から取り上げた。
 空き瓶を十個集めて店頭で渡すと、プリンを一つサービスしてくれるらしいが、お取り寄せグルメの場合はどうなるのだろうか。

 「龍馬らしいね」と、理事長は品よく笑った。


 「さて、本題に移ろう」


 これが本題ではなかったのか。

 プリンを食べる手を止まる。


 「私の父――…古賀財閥代表取締役の古賀 宗一郎が、君に会いたいと言っている」
 「……祖父が?」
 「どういう風のふきまわしかな。君が了承するなら、夏休みに帰省する際にでも本家に立ち寄っていただきたい。勿論私も同席しよう」
 「本家、」


 それは、幼い頃に僕が過ごした場所でもある。


 「断るなら早めにお願いしたいが……まだ先の話だ、出来れば良い返事を聞かせてほしい」


 古賀 宗一郎。
 古賀財閥代表取締役。

 僕の祖父であり、―――市川の父だ。


 「……考えておきます」


 手にしていたプリンを口に運ぶ。

 何だか上手く飲み込めずに、口の中に甘さが拡がった。




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あきゅろす。
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