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それから
   
 
 翌日、テストは無事執り行われた。


 「すげー! 木崎一位じゃん!」


 そして更に翌日――事件発生から二日後――職員室前に貼り出された学年順位の紙には、一番右側に僕の名前が書かれている。

 三科目合計で第一学年首位。
 全科目を通して見ればケアレスミスが目立ったものの、まずまずの出来であった。


 「そういう市川は?」
 「二十七位!」


 市川は得意気にフフンと笑った。

 確かに市川の名前の上には、「二十七位」の文字が踊っている。つい先日まで教科書の目次すら読めなかったのに、それを考えれば大いなる飛躍である。
 勿論市川の努力も涙ぐましいものがあるが、僕は西園寺会長を労いたくなった。


 「あ、紫先輩だ」


 第三学年の掲示板の前に、金色の髪が見える。生徒会役員の美作副会長の姿を見止め、市川は小走りで向かっていく。

 その後ろ姿を眺めていたら、


 「おめでとう、キサキ君」


 背中をポンと叩かれ振り向くと、チカ先輩と桐生先輩がいた。今日は暑いからか、チカ先輩はパーカーを着ていない。


 「第一学年首席。さすがだね」
 「ありがとうございます。お二人はどうでしたか」
 「チカも俺も次席だ。第二学年は環が満点の首位だし、俺は美作に越されたな」
 「晴一は十六位だったよ」


 Sクラス勢の中に、一般クラス生がこの順位でめり込むというのは、しかし凄いことだと言う。


 「桐生先輩、熊谷先生は………」
 「寮で謹慎処分を受けているが、懲戒免職は免れないだろう」


 あの日、桐生先輩は教頭を呼び、事の顛末を洗いざらい話した。
 「本当なのかい?」という教頭の問いに、熊谷先生は力なく頷いた。

 事件に大きく関わった風紀委員会には、事件の書類化が依頼された。そのため僕らは、テスト終了後からデスクワークに励んでいる。今日の放課後には終わるだろう。


 「当然だろう。犯罪行為だからね」


 チカ先輩はさらりと述べた。
 同情の余地は、ない。


 「夏期休暇まで目立った行事もない。休暇前の浮かれた生徒の取締くらいだ」
 「一学期はテストが山といったところだね」


 二人は話しながら先を歩いていく。チカ先輩は腕を上げて、うーんと伸びをした。

 もうそんな時期なのか。
 夏休みは実家に帰ろう。そういえば色々と慌ただしくしていて、茜にも連絡していないな、と思った。


 中央校舎南廊下の窓から、中庭が見える。
 蜃気楼のように靄が掛かって見える景色に、僕は目眩を覚える。

 夏はあまり好きではない。
 蒸し暑くてかなわないのだ。

 それでも何故か、僕は窓を開けた。じっとりとした風が吹き、前髪を揺らした。

 身体にまとわりつくような熱。
 夏の憂鬱。


 「いきなりどうしたんだい?」
 「いえ、別に」
 「クーラーの風が逃げるから、早めに閉めてくれよ」


 桐生先輩に言われ閉じた窓。
 その向こうが名残惜しく思えるのは何故だろう。

 額を伝う汗を、クーラーの風が乾かした。




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あきゅろす。
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