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電話に気付かないほど深く眠っていたのなら、未だ眠いなどということは無いだろう。
「なるほど。いい推理だね」
「先ほどの桐生先輩の仮説を採用します。犯人がテストを転売するために盗んだのだとしたら、古いテストに用は無い――…犯行が失敗し、露見し、更に新たなテスト用紙が発行された。犯人は古いテスト用紙を捨て、新しいテスト用紙を手に入れようと考えたのです」
「………見回りの交代、か」
桜庭先輩が思いついたように言った。
「そうです。見回りの担当者が自分の学年の教師であったことを盾に、熊谷先生は責任を取るという名目で、見回りの交代を申し出ました。ついでにテスト用紙のコピーも引き受けます。これで容易にテスト用紙の入手が――…」
「出鱈目だ!」
それまで黙っていた熊谷先生が、急に叫んだ。
「全部出鱈目だ! こじつけだ! 第一証拠はどこにある!?」
両手を突き出して僕に襲いかかろうとした熊谷先生を、桜庭先輩が右手で制した。「くそっ!」とその手を払いのける、その剣幕は鬼気迫るものがある。
しかし証拠については憶測であるうえ、処分されている可能性も高い。が、ここまで上からの物言いで強気の推理を展開してきた以上、「証拠はありません」と言うわけにもいかないだろう。
「………シュレッダー…か?」
桐生先輩がぽつりと呟くと、熊谷先生は大きく肩を揺らした。
もう言ってしまってもいいんじゃないだろうか。
「……そうです。熊谷先生は不要なテスト用紙をシュレッダーに掛けたのです。……しかし、ゴミを回収するときに見つかる恐れがあるため、"故障中"の紙を貼った」
あの中のゴミを集めて繋げれば、大量のテスト用紙になるだろう。
気の遠くなるような作業であるため、僕はお断りしたいが。
「……出鱈目だ」
しかし熊谷先生は食い下がる。
「それだって犯人がやったかもしれないだろ! 髭は寝坊して剃り忘れた!欠伸なんて誰でも出る! コピーを引き受けたのは第三学年の主任としての責任を取るためだ! 何も証拠になんてならないだろう!?」
そこまで言われてしまっては、憶測で物を言っている僕としては黙らざるをえない。
やはりシュレッダーの中身を取り出して指紋検証をするしかないのか。面倒だから嫌だ。誰か別の人に任せたい。
「まったく往生際が悪いなあ。認めたまえよ」
「何だと!? 名誉毀損だ!! テストなんか盗んでない! 盗んだなら今、俺はテストを持ってるはずだろ! 身体検査でもするか!?」
熊谷先生の眼は血走っている。
正義感の欠片もない僕としては犯人検挙に重きを置いていないため、はっきり言うと熊谷先生が食い下がるほど盛り下がってしまうのだ。
さてどうしようか。
そう思った瞬間。
ピルルルルルル。
携帯電話が鳴った。
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