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それは初耳だった。
僕は犯行動機までは思い付かなかったため、そんな理由もあったものかと感心した。嫌がらせ目的という動機を思い浮かべたりもしたが、可能性は低いだろう。
「それならば、金庫の中身を"全て抜き去る"必要はないと思いませんか?」
古賀学園の生徒は約千名。
テスト科目は各クラスバラバラだが、少なく見積もって平均五科目としても、五科目×千名で五千枚。持ち去るよりも、一枚ずつ抜き去る方が利口な考えだ。
そもそも僕が犯人ならば、犯行をなるべく隠したい。全て盗むよりもリスクが低い手口があるならば、そちらを選ぶだろう。数枚抜き取るだけならば、もしかすると盗難に気づかない可能性もある。
これは、犯人が生徒でないと考えた理由の一つでもある。
生徒の犯行ならば尚更、自分にとって必要なテスト用紙だけ盗めばいいのだ。
「言われてみればそうだな………」
「そこで先ほどの"不測の事態"が関係してきます。佐橋先生がいつもより早く見回りに出、職員室の物音に気づいてしまった。犯人は犯行真っ最中だったのでしょう………焦った犯人は、全てのテスト用紙を抱え、職員室に身を潜めた」
しかし、金庫の扉を閉め忘れてしまったのだ。
「佐橋先生は電話をし、学年主任を呼ぶ。しかし、上條先生しか来なかった」
「後の先生は眠っていたそうだな」
「はい。ですが、夜の八時ですよ? 三人中二人が眠っているなんて、確率的におかしな話です」
「じゃあまさか、」
「はい。犯人は、"電話に出ることが出来なかった"のです」
職員室には明かりが点灯していた。中からコピー機の音がかすかに聞こえる。
「何故なら犯人はそのとき、職員室に身を潜めていたのですから」
扉を開けた。
その音に、コピー機の前に立っていた"犯人"が、大きく肩を揺らした。
「そうですね――…テスト盗難事件の犯人の、熊谷先生」
バッと振り向いた熊谷先生は、目を大きく見開いた。
「お前ら……何故学園内にいる」
「上條先生と佐橋先生は、学園内を見回りに行きました。しかし出くわすのを恐れたのでしょう、熊谷先生は職員室から動けませんでした」
答えるのが面倒なので、僕は熊谷先生の問いを無視することにした。もしも推理小説ならば「あなたこそ、どうして職員室に?」と言ったのだろう。が、僕は物語の探偵になれるほど、マメな人間ではない。彼の発言に一々構っているほど優しくはない。
「二人は見回りをしたあと、セキュリティのため赤外線レーザーのスイッチを入れた。――…熊谷先生、あなたは寮に戻っていないのです」
「……何故そう言い切れる?」
「髭です」
熊谷先生の口周りには、今も無精髭が生えている。
「先生は寮に戻れなかったため、髭を剃れなかったのです。それともうひとつ、欠伸をしたのも気になりました」
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