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「しかも今日中に制作だなんて………理事長もどうかしている」
テストの盗難が発生したのは昨日。再制作を今日行い、明日にはテストが行われる。
詰め込みすぎのスケジュールに、僕は身内として僅かながらの罪悪感を抱いた。
「―――ありがとうございます。熊谷先生はどちらにいますか?」
愚痴っぽい上條先生に嫌気が差したのか、桐生先輩は話を切り上げる風に言った。
気づいていない様子の上條先生は、未だパソコンの画面から目を離さずに答える。
「さっきコピー機の方にいましたよ」
行ってみると、第三学年主任の熊谷先生は、コピー機の脇にあるシュレッダーの前で屈み込んでいた。シュレッダーには『故障中』と書かれた紙が貼ってある。
「おい、生徒の職員室への立入は禁止だ」
開口一番にそう言われ、「鳴海先生から許可をいただきました」と答えた。あながち嘘ではない。
「故障ですか」
桐生先輩はシュレッダーを見遣り、言った。
僕は脇にあったコピー機を見ていた。ファックス機能もあり大変便利そうである。
「あぁ………紙が詰まってる。触るなよ」
熊谷先生は心底鬱陶しそうに言った。
盗難事件の起こった夜、熊谷先生は及川先生と同じく眠っていたため、電話の音には気づかなかったそうだ。
「テスト盗むなんて、面倒なことしやがって……実力でやれよなぁ」
熊谷先生は独りごちるように言うと、気だるげに欠伸をした。
◇
事件のあらましをある程度把握したため、僕と桐生先輩は迎賓室に一度戻ることにした。
「設楽先生」
「お久しぶりだね、桐生君」
職員室を出るとき、養護教諭の設楽先生とすれ違った。
桐生先輩は風紀委員会での仕事上怪我をすることが多く、一時は保健室に頻繁に世話になっていたという。
「テスト盗難は大変だったみたいだね」
設楽先生はニッコリと笑った。
「自分には関係ない」と言いたげな笑顔であったが、僕はあえて指摘せず黙っていた。
「どうしたんですか」
「うん、正門の鍵を届けにね」
「正門の鍵?」
「今日は僕が校内見回りだったんだけど、熊谷先生が変わってくれるそうなんだ。テスト盗難があったでしょ、その日の見回りが第三学年の主任だったから自分が責任を取るとか、ついでにテストをコピーするとか言ってたかな」
佐橋先生が聞いたら、責任感に押し潰されて泣き出しそうな内容だと思った。
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