聞き込み
早速、桐生先輩と僕が聞き込みに行くことにした。
「これが小型カメラになっているから、なるべく正面に立って話すんだよ」
チカ先輩が製作したというペンダントを、首から下げた。
チカ先輩は桜庭先輩と一緒に、事件の現場である職員室に仕掛けた監視カメラの映像を解析するという。
環先輩は相変わらず「ドラえもん」を読んでいる。
「探りを入れてると思われませんかね」
中央校舎二階にある職員室を目指す。
桐生先輩は僕の問いに、肩を竦めた。
「解決すれば問題は無いだろう」
その通りだと思った。
職員室は何やら空気が張り詰めており、また皆一様に忙しなく動いている。テストの盗難が発生したため、テスト問題の再制作に追われているのかもしれない。
「おい、生徒は寮で待機のはずだぞ」
何から始めるべきか迷っていると、早速痛いところを突かれてしまった。
「生徒が盗んだ」という噂が立っているためか、念を押して生徒は校内の立ち入りを禁止されている。
「風紀の調査ですよ」
「風紀?……あぁ、木崎じゃねえか」
僕らに声を掛けたのは、第一学年Sクラス、つまり僕のクラスの担任、鳴海 嵐だった。黒いスーツには、いつも襟首の開いたシャツを合わせている。
「こんにちは、鳴海先生」
「ぁあ……つーか何の調査だよ。帰れ帰れ」
鳴海先生は手で追い払うような仕草をしたが、
「定期テスト盗難事件の調査です」
桐生先輩の一言で、ぴたりと動きを止めた。
「………風紀の仕事じゃねえだろうが」
「はい。ですが生徒の中に犯人がいるとなれば、生徒代表として学園の風紀を統治する立場上、見過ごせません」
口八丁手八丁、物は言い様である。
鳴海先生は苦々しげな表情で舌打ちをした。
「あー……分かった。そこまで広まってんのかよ」
「ありがとうございます。生徒の間では噂になっていますね」
桐生先輩はニコリと笑って言った。
「テスト盗難が発生した時の様子を教えていただけますか?」
「様子? それなら三年の佐橋に聞け」
「佐橋」?
桐生先輩を見遣ると、「三年Bクラスの担任だ」と教えてくれた。
「佐橋が見回りしてるときに発覚したんだと」
「そうですか。ちなみに鳴海先生はその時、何をなさってましたか?」
「ぁ? おい俺が盗むと思ってんのかお前ら」
「まさか。念のため、一応お伺いしようかと」
桐生先輩が言うと、鳴海先生はまた舌打ちをした。少々うろたえ、言い淀むように目線を動かす。
「………職員寮にいた」
「職員寮?」
「盗難が発覚したのは夜だからな。ほとんどの教師は寮にいる」
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