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 何となく、南校舎に足が向いていた。
 すれ違う生徒たちの話題は、盗まれたテスト用紙の件で持ちきりだ。あいつじゃないかと、実名を挙げて噂をする生徒の姿もある。


 「あ」


 迎賓室の扉を開けると、環先輩を含む風紀委員の先輩が、そこにはいた。
 机に腰掛けていた桐生先輩は「木崎か」とため息を吐き、チカ先輩は珍しくヘッドフォンを外しており、桜庭先輩は壁にもたれ、環先輩はソファに寝転びながら「ドラえもん」を読んでいた。環先輩の私物なのだろうか。


 「盗まれましたね。テスト用紙」


 誰にともなくいうと、環先輩以外の全員が少なからず反応を見せた。この問題に関心を寄せている証拠である。


 「………」
 「………弱ったな」
 「そうだね」
 「どうしますか?」
 「明日迄にまた新しいテスト作るんだろ?」
 「………しかし、」
 「風紀が出る幕じゃねえよ」


 桜庭先輩は壁から背を離し、体勢を整える。


 「「「は?」」」


 何かが食い違っている。

 桜庭先輩の発言に反応すると、どうやら桐生先輩とチカ先輩も同一の見解を示していたようで、三人揃って声が重なってしまった。


 「待て晴一、お前は勘違いしているようだ」
 「別に学園のために何かしようなんて思ってはいないよ」


 チカ先輩が言うと、桐生先輩は「いや俺は趣味と実益を兼ねている」と反論し、チカ先輩は「好きにすればいいよ」と返した。


 「テストが延期になった。それ自体は問題にはならないんです」


 別にテストが今日であろうと明日であろうと、結果は変わらないのだ。
 しかし問題は、


 「―――今日、することがなくなりました」


 只でさえ暇を持て余していたのだ。
 これ以上退屈するなんて耐えられない。


 「………は?」
 「トランプも飽きましたね」
 「実際にお金を持っているからね。大富豪になってもね」
 「授業も委員会もないと、することがないものだな」
 「………おいまさかお前ら」


 そのとき環先輩が、「ドラえもん」をパタンと閉じた。
 全員が環先輩に集中する。


 「丁度良い退屈しのぎだ」


 パズルゲームよりは難解で、暇潰しには持ってこいかもしれない。


 「風紀委員で、犯人を突き止めます」
 「…………嘘だろ」
 「愉しそうだよね」
 「一日で解決させることがポイントだな」


 こうして風紀委員会の面々は、テスト盗難事件の犯人を探し出すことにしたのであった。




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