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「順位を決めるのは三教科だけだから、そこに力を入れろ。ちなみに学力特待生の最低点数は、三百点満点中二九五点だ」
「……え」
「それくらい取れれば周囲も納得するだろう」
他の教科は、普通科の高校では採用していない科目ばかりであるから、点数が低くてもあまり問題はないだろう。「中学校の頃学習していない科目だから仕方ない」と善処してくれる、かもしれない。
「いや、二九五点も無理だし………」
「今日は学食で食べる」
「何で!?」
「お前は勉強しろ」
その時、タイミング良くドアチャイムが鳴った。
「行くぞ市川」
「えええ……あ、そうだ! 木崎、勉強教えて!」
「もう呼んである」
「はぃ?」
ソファから立ち上がり、インターホンで応対する。部屋の鍵が空いている旨を伝えると、ガチャリとドアノブを捻る音がした。
「よっ、晶」
「てめぇかよ!」
西園寺会長と僕は、メル友である。
「西園寺会長は昨年度の学年末学力査定で、学年三位という結果を残した実力者だ。会長、よろしくお願いします」
「任せろ。おい、俺様が教えてやるんだから一位取れよ」
「え、ちょ、いやあああああ!!!」
首根っこを掴まれた市川は、会長に引き摺られて僕の部屋を後にした。
僕はその姿をテスト当日までは見られないだろうと、両手を合わせた。
健闘を祈る。
◇
チカ先輩は、理数系科目に長けているという。
「五科目だと、国語が足を引っ張るなあ。漢文は割かし取れるけど、現代文が苦手だよ」
何でも中等部の頃から、科学に関する国内外の賞を幾つも貰っているそうだ。赤い線と青い線のどちらを切るかでも迷ってしまう僕にとって、科学は未知の世界だ。学校の授業範囲内のことは問題なしに行えるが、時限爆弾の解除は出来ないだろう。たぶん僕は躊躇いなく、赤と青の線を両方切断する。
「凄いですね」
「理系科目ならね。委員長は全体的に安定した点数が取れるから、僕よりも凄いよ」
チカ先輩は「受験に強い!試験に勝てる! ラップでステップ・覚える古文」と書かれた参考書をぱらぱらと捲りながら言った。今日はヘッドフォンを首に掛けている。
そのチカ先輩の言葉に、桐生先輩は国立大の赤本を読む手を止めた。
「国立大受験に合わせて科目を絞ったからな。テストもSクラスにしては少ない」
「あ、いいんちょー大学受けるんだ」
「古賀学園は経営や経済には強いが、さすがに法律の勉強はしないからな」
古賀学園は、社長子息など所謂「跡継ぎ」が多いため、大学を出なくても即戦力で社会に通用する人材育成に力を入れている。専門的に学びたい人間には、古賀学園だけでは物足りないのだろう。
「法学部を受けるんですか」
「あぁ、父が法律事務所を開いているから、その影響かな」
「僕はどうしよっかなあ」
「チカも進学か?」
「企業からの求人は来ているけれど、大学の研究室で色々と冒険したい気もするね」
意外と進学希望者が多いことに驚いたが、「大抵の生徒は就職する」という。風紀委員会は例外だそうだ。
「就職希望者は必修単位数も多いから、学年が上がる毎にテスト科目も増えていくな」
基本的に授業科目は選択制だそうだ。
一年生のうちは必修科目ばかりだけど、学年が上がると取得可能な科目も増える。
就職希望者は就職に備えて選択科目を増やしていくが、少数派の進学希望者はセンターや受験に備えたカリキュラムを自ら組むという。
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