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 ◇


 「……ダメだ絶対」


 市川は頭を抱え呻いた。


 「絶対無理! 授業自体がまず意味わかんねぇし!」
 「クラス編成査定は年に一回だから、一般クラス落ちはないだろう」
 「でも一点も取れる気しねぇ………」


 いっそ一般クラス行きたい、と市川は呟いた。

 理事長も何故こいつをSクラスに入れたのだろうか。中学校へまともに通っていなかったことはすでに調べが付いているはずだから、学力レベルなど計り知れるだろう。


 「……あぁ、お前は裏口入学だからな。特待生が一般クラスだなんて可笑しな話だから、Sクラスに割り当てられたんだろうが………」
 「裏口って言うなぁぁ!!」
 「事実だろ」
 「………木崎はいいよな、マジで頭いいし。特待生だし。俺なんて肩書きだけは特待生だから、いい点取らなきゃいけない気がしてプレッシャー……」


 学力特待生は定期テストの平均点が一定ラインを下回ったら、主に金銭面での特別待遇を受けられない。なので「気がする」ではなくて、事実「いい点取らなきゃいけない」のだが。しかし、今それを言って追い討ちを掛けるのは可哀想なので、黙っておくことにした。
 まあどうせ、理事長の父親、古賀財閥代表取締役に援助されているこいつが「特待生落ち」するなんてことはないだろう。


 市川は今、僕の部屋で嘆いている。夕食を作りに来たそうだが、それなら早く作ってほしい。
 仕方ないので、持ち帰ってきたきな粉のロールケーキを食べることにした。


 「特待生が0点とか……やっぱマズイよなあ………」


 相変わらず美味い。


 「でも四月から……っつーか中学の勉強すらわかんねぇし………」


 欲を言えば、スポンジが軽すぎるかもしれない。もう少ししっとりしていても問題ない。


 「そもそも中国語とかわかんねぇ……って木崎聞いてる?」
 「聞いてる」


 Sクラスの前期テスト科目は、国数英の三教科に加え、情報ビジネスや簿記、更に中国語やフランス語など十五科目ある。
 今回のテストにおいて、一般クラスとの共通科目は国数英の三教科のみであるため、学年順位はこの三教科の合計点で決まる。

 一般の高校よりもかなり多い科目と単位数。
 社会に出て即戦力の人材育成。そのためにはこれくらい詰め込まなくてはいけないのだろう。


 「中国は近年、高度経済成長が見受けられるからな。今年度から必須科目として取り入れたそうだ」
 「いらねぇ………」
 「美作副会長に教えて貰えばいいだろう。第三学年の首席らしい」
 「………勉強するって」


 市川はソファの上に丸くなった。

 ……仕方ない。
 普段は充電器に差したままの携帯電話を手に取った。電子メールは相変わらず慣れない。そういえばアップル社から発売された携帯電話は、文字の入力がタッチパネル式だった。あちらの方がまだ使いこなせるかもしれない。今度買い換えるときは、あれを検討しよう。




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