事実は小説よりも
大講堂を混乱させた挙句逃亡した俺たちが、お咎めなし、なんてことはありえなくて。そんなハッピーエンドは映画かドラマか、もしくは小説くらいだ。
現実って厳しい。
「あの後どうしたか、分かる?」
生徒会室の真ん中で、俺たち生徒会役員は正座中。正座似合わないランキング一位の司と、二位の紫先輩も勿論一緒だ。
その俺たちの周りをゆっくりと歩きながら威嚇してるのが、風紀の上ノ宮先輩だ。こんなにも小柄で可愛いのに、怖い。
「混乱する生徒を落ち着かせ、各学年ごとに教室に帰らせた。部活生徒以外の校舎の使用を禁じ、いま殆どの生徒を寮に帰している途中だよ。勿論、風紀委員のメンバーがね」
「ごめんねぇえチカちゃん!!」
「…………ごめん」
隣にいる近江先輩はマジ泣き、その更に隣の大倉先輩は鼻を啜っている。
それでも上ノ宮先輩は鬼だ。「泣いて済むなら風紀委員はいらないよね?」とばっさり切る。普段なら言い返しそうな司と紫先輩も、大人しく正座して黙っている。
「生徒会の不始末を回収しているのは、僕らなんだよ?」
だって瞳孔開いてるんだもん。
「それなのに"より良い学園生活を"だなんて、笑わせるね。確かに去年よりは良い方向に進んではいるけれど、僕ら風紀委員会の仕事量は変わらないようだね」
「…………」
「…………」
返す言葉もありません。
「自分たちのしでかしたことで何が起こるのか、それくらい考えてほしいものだよ」
「………悪い」
あ、司が謝った。
「……まぁ、結果的には西園寺会長の判断が最善だね」
「え?」
上ノ宮先輩はぴたりと足を止め、ため息を吐いた。
「スカウト制にした方が、あてにならない投票よりも、適正人材を見抜けるということだよ。それが使えないならば、全校生徒が引きずり下ろすことも出来るわけだ。生徒にとっては不足はないよね」
引きずり下ろすって………怖いな。
「抱きたい・抱かれたいランキングとかいう、くだらないもので役員が決められるよりは数倍ましだ」
上ノ宮先輩は、忌々しげに吐いた。
……抱きたい、ランキング?
「あの……」
「何だい新人君」
「何ですか、そのランキング」
「あぁ、君は編入生だったね」
上ノ宮先輩はポンと手を叩いて言った。
聞いちゃいけないような気もしたけれど、好奇心には勝てなかった。ごめん、警報を発してる俺の中の俺。
「その名の通りのランキングだよ。毎年新聞部が集計を行っている。容姿を見て生徒が投票する、そこまでは勝手にすればいいのだけれど、それが生徒会役員選挙にも関わってくるから困る」
「は………」
「見目のいい人間を祭り上げようと、ランキング上位の人間を周りが推薦し、また投票するのさ。本当に能力のある人間が埋もれていく」
じゃあ司も紫先輩も、大倉先輩も近江先輩も?
「見た目だけで、ってそんな……」
「ある種の人権侵害だね。お陰で去年の生徒会はひどかった」
上ノ宮先輩は、何かを思い出したみたいに遠くを見ていた。
俺以外の、正座をしてる生徒会の先輩たちの空気が、ずぅんと重くなる。
え………何があったの。
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