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挑発的な視線と、重低音の声。
ぞわりと肌が震えた。
何やってるんだろう、俺は。司が鬱陶しくて逃げ回って、変装までして、それすらバレて無理やり生徒会に入れられて。嫌だったはずなのに。
辞めたくない、と思った。
仕事なんて全然出来なくて、自信なんてどこにもない。それでも毎日、やる気があるんだかないんだか分からない先輩たちと一緒にいて、風紀の先輩に怒られたりもして。そんな毎日をもっと、続けていきたいと思った。辞めさせられるかもしれないと思ったとき、もっと頑張りたいと思った。
捕らわれている。
閉鎖的なこの学園は、檻だ。
諦めたつもりはない。このまま力尽きるつもりもないけれど、俺はきっと、あの男に捕らわれた。
逃げるときは道連れ、ってか。
結局どこにいたって、あいつは俺の傍から離れないのかもしれない。俺はあいつの傍から離れられないのかもしれない。
もう、逃げられない。
「西園寺様……」
「そこまでしなくても!」
我に返ったらしい小柄な生徒が、立ち上がって叫んだ。それにつられるように、講堂はどよめく。
司は舌打ちをして(マイク通して聴こえてるっつーの)、その生徒を面倒臭げに睨んだ。
『お前らが二年前に持ち上げたのが俺だろーが。今更"やっぱりダメだ"なんて言わせねーよ。お前らが選んだ俺が、選んだ役員だ。文句あるやつは今すぐステージ上がって来い』
プロレスラーか、お前は。
理不尽すぎる発言、でもその迫力に怯んだのか、抗議した生徒たちは肩を強張らせた。
変わっていく。
顔と家柄だけで選ばれるような環境が。気に入らない人間を、集団でねじ伏せるようなやり方が。
「そんなのダメです! 生徒会は生徒が選ぶんです!」
「そんな決め方だから今まで学園が荒れてたんでしょ!? 役員の方が決めた方が絶対いいに決まってる!」
「そいつが使えないなら辞めさせられるみたいだしな……」
「ちょっと何言ってんの!?」
きっと今すぐは無理だけど。
変わっていく。良い方向に、少しずつ。
ステージに立つ司と目が合った。
俺様会長のニヤリと笑うその顔に、俺はVサインで返す。
この巨大な檻の中に放り込まれた奴らの中には、変えていく力を持つ人間もいる。変わりたいと思う気持ちがあるから、変わっていく人間がいる。
悪くないかも。
ようやく愉しくなれそうな学園生活に満足。大講堂は司の発言に、蜂の巣を突いたような騒ぎが起きている。
「うるさいからもう行こっかぁ」
「………帰る。晶、」
「え」
両隣の先輩が、俺の手をぐいっと引いた。
「どこ行くんですか、」
「………生徒会室」
「新しい役員決めのルール作って、さっさと理事会に出さないと、反対派の生徒が押し掛けてきて面倒なんだよぉ?」
いいのか、そんなやり方で。
金持ちのやることは分からない。いや、金は関係ないか。………ないのか?
でもまぁ、いいか。
もし俺の考えが間違っていたとしても、大多数の人間が責めたとしても、この手を引いてくれる人が、こんなにもいるから。
「ついでだからドサクサに紛れて、生徒会室の隣に学食作っちゃおっか!」
「えっ!」
「………それは、駄目」
こっそりと講堂を出た俺たちに、気づく人はいない。
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