[携帯モード] [URL送信]
--02
 
 
 挑発的な視線と、重低音の声。

 ぞわりと肌が震えた。
 何やってるんだろう、俺は。司が鬱陶しくて逃げ回って、変装までして、それすらバレて無理やり生徒会に入れられて。嫌だったはずなのに。

 辞めたくない、と思った。

 仕事なんて全然出来なくて、自信なんてどこにもない。それでも毎日、やる気があるんだかないんだか分からない先輩たちと一緒にいて、風紀の先輩に怒られたりもして。そんな毎日をもっと、続けていきたいと思った。辞めさせられるかもしれないと思ったとき、もっと頑張りたいと思った。


 捕らわれている。


 閉鎖的なこの学園は、檻だ。
 諦めたつもりはない。このまま力尽きるつもりもないけれど、俺はきっと、あの男に捕らわれた。

 逃げるときは道連れ、ってか。
 結局どこにいたって、あいつは俺の傍から離れないのかもしれない。俺はあいつの傍から離れられないのかもしれない。

 もう、逃げられない。

 
 「西園寺様……」
 「そこまでしなくても!」


 我に返ったらしい小柄な生徒が、立ち上がって叫んだ。それにつられるように、講堂はどよめく。
 司は舌打ちをして(マイク通して聴こえてるっつーの)、その生徒を面倒臭げに睨んだ。


 『お前らが二年前に持ち上げたのが俺だろーが。今更"やっぱりダメだ"なんて言わせねーよ。お前らが選んだ俺が、選んだ役員だ。文句あるやつは今すぐステージ上がって来い』


 プロレスラーか、お前は。
 理不尽すぎる発言、でもその迫力に怯んだのか、抗議した生徒たちは肩を強張らせた。

 変わっていく。
 顔と家柄だけで選ばれるような環境が。気に入らない人間を、集団でねじ伏せるようなやり方が。


 「そんなのダメです! 生徒会は生徒が選ぶんです!」
 「そんな決め方だから今まで学園が荒れてたんでしょ!? 役員の方が決めた方が絶対いいに決まってる!」
 「そいつが使えないなら辞めさせられるみたいだしな……」
 「ちょっと何言ってんの!?」


 きっと今すぐは無理だけど。
 変わっていく。良い方向に、少しずつ。


 ステージに立つ司と目が合った。
 俺様会長のニヤリと笑うその顔に、俺はVサインで返す。

 この巨大な檻の中に放り込まれた奴らの中には、変えていく力を持つ人間もいる。変わりたいと思う気持ちがあるから、変わっていく人間がいる。


 悪くないかも。


 ようやく愉しくなれそうな学園生活に満足。大講堂は司の発言に、蜂の巣を突いたような騒ぎが起きている。


 「うるさいからもう行こっかぁ」
 「………帰る。晶、」
 「え」


 両隣の先輩が、俺の手をぐいっと引いた。


 「どこ行くんですか、」
 「………生徒会室」
 「新しい役員決めのルール作って、さっさと理事会に出さないと、反対派の生徒が押し掛けてきて面倒なんだよぉ?」


 いいのか、そんなやり方で。
 金持ちのやることは分からない。いや、金は関係ないか。………ないのか?

 でもまぁ、いいか。
 もし俺の考えが間違っていたとしても、大多数の人間が責めたとしても、この手を引いてくれる人が、こんなにもいるから。


 「ついでだからドサクサに紛れて、生徒会室の隣に学食作っちゃおっか!」
 「えっ!」
 「………それは、駄目」


 こっそりと講堂を出た俺たちに、気づく人はいない。




[←][→]

12/14ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!