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生徒総会

 
 次の週、生徒総会が行われた。
 ちなみにこの総会で、新しい生徒会役員が選ばれるはずだった。役員になりたい生徒は沢山いるらしく、俺は朝から鋭い視線をありとあらゆる方向から浴びている。


 「………疲れました」
 「頑張ってアキちゃん!」
 「………すぐ、慣れる」


 耐え切れず、俺はがっくりと肩を落とした。

 去年までは完全に生徒の推薦だったのに、今年は司の勝手な判断で決められた役員。こうやって睨まれるのは当然……かもしれない。

 今俺たちは、ステージの横に置かれた「生徒会役員席」に座っている。紫先輩は司会を務めているため、舞台裏の放送室にいる。司は次のスピーチに備えて、さっき役員席を離れたばかりだ。
 今は風紀の桐生先輩がステージに上がり、スピーチをしている。正直、司よりもあの人の方が生徒会長に相応しいと思う。何であの俺様バカが会長なんだろう。


 『―――風紀委員からの挨拶を終わります。では続きまして、生徒会からのお知らせです』


 紫先輩の麗しい声に、近くに座っていた生徒がほぅとため息を吐いた。
 司がステージに上がると、囁きが大きくなっていく。「かっこいいー」だとか、男が男に対して普通に言っても、誰も何とも思わない。

 おかしいんだよな、どう考えても。

 これがこの学園の「普通」だとしても。
 差別するつもりはないけど、男が男を好きになったり、男が男を強姦したりすることが「普通」とされてるこの状況が、「異常」なんだ。
 中学からこんな山奥の男だらけの場所で過ごして、きっと今の第三学年の奴らが入学したときから、そのときの先輩が入学したときから、この学園はずれていた。


 『先日、新しい役員として、第一学年の生徒を任命致しました――…』


 ざわめきがまた大きくなった。
 近くにいた小柄な生徒とばっちり目が合って、俺は視線を逸らした。


 『僕の独断で選択した結果に、全校生徒の皆さんを混乱させたことを、深くお詫び致します』


 僕ってお前。いや、そんなこと考えてる場合じゃないんだけど。隣で近江先輩が「つーくん、あんな喋り方出来るんだねぇ」と呑気に驚いていた。

 俺を慕ってくれる人がいる。でも、俺を憎んでる人もいる。そんな中で、全校生徒の代表として上に立つなんて出来るのかな。俺がそんなこと、してもいいのかな。 


 『元より、いわゆる"人気投票"のような形で、生徒会役員は選ばれて来ました。容姿と家柄。この二つが物を言うような"生徒会"でした』


 突然しんとなる大講堂。

 ステータスだけで物事を見ていた。それだけで人を判断して、勝手に決めつけていた。

 きっと気づいてた。自分たちにとっての当たり前が、狂ってるということに。その考えは大多数に圧倒されて怖気づいていたかもしれないけれど。
 そうでなければ、気づいてないならこんな空気にはならない。気まずげに顔を伏せたりするやつが、今ここにいるはずなんかない。


 『今年度より生徒会は、役員による完全推薦制度を導入致します。―――もしもその役員が無能であるのならば』


 その言葉に耐えきれなくて顔を逸らそうとすると、ステージの上の司と目が合った。
 よっぽど泣きそうな顔をしてたのか、司は俺を見て呆れたような溜息を洩らす。


 『自分こそ優れていると思うやつが、直接生徒会室まで来い。そいつの方がいいってんなら、俺が推薦した役員は辞任させ、』


 すぅ、とマイクを伝い、息を吸う音がやけにはっきり聴こえた。


 『責任取って俺も辞めてやるよ』




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