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驚いて皆ドアの方向を見ると、そこには息を切らした生徒が立っていた。
「皆川君」
「何してるの? 総代の僕の許可なしに、親衛隊の発足が出せるとでも思ってるの?」
生徒会親衛隊総代表………皆川先輩、か。
そうだ、この人は確か、春に屋上で因縁付けられたときに真ん中にいた人だ。
皆川先輩は俺をギッと睨むと、椅子に座って脚を組む司の方を振り向いた。さっきまでの顔とはまったく違う、か弱い乙女の顔で。
「西園寺様、この男はあなたに学食で暴言を吐いたのです! 目を覚ましてください、親衛隊の発足どころか、生徒会にすら相応しくありません。今すぐ生徒会入りを取り消してください!」
「皆川くん、」
「黙ってよ! 僕に逆らう気なの!?」
「…………」
それを止めようとする牧野先輩に、皆川先輩は噛みつく。
黙ってしまった牧野先輩に、皆川先輩は更に言葉を重ねた。語気が荒く、完全に苛立っている。
「どうなるか分かってるの? 僕は生徒会親衛隊の総代で――…」
「目を覚まして下さい、皆川先輩」
別の声が入ってきた。
ついさっき、昼休みに聞いたその声は、
「斑目先輩」
「あなたは総代に相応しくはない」
皆川先輩よりも頭ひとつ大きい身体。
そのせいだけではなく、圧倒するような斑目先輩の気迫に、皆川先輩は一瞬詰まった。
「何言って……」
「親衛隊は、多忙な役員の皆様の生活を、行き過ぎたファンからお護りするための組織です」
そこにまた一つ新しい声が、生徒会室に響いた。
ドアから入ってきたその生徒は、皆川先輩の前で止まった。
ネクタイの色はエンジ。柔らかそうな髪と黒目がちの大きな眼は皆川先輩に似ているけれど、この人は違う。こんなに小さい、女の子みたいな身体なのに、纏う空気は落ち着いていて、浮ついた雰囲気なんかどこにもない。
「今のあなたは"行き過ぎたファン"そのもの。あなたは総代にはなれません」
「………ッ!!」
その人はそう言うと、皆川先輩の脇を通り抜けて司の元まで歩いて行く。
司の目つきは鋭く、その人を睨んでいるようにも見えるけれど、いつもより少しだけ驚いたように見開いているのが分かる。
「本日付で西園寺会長親衛隊隊長、並びに生徒会役員親衛隊の総代表となります。鳴瀬 忍です」
「鳴瀬!」
「西園寺会長親衛隊隊員の八割が、あなたの辞任を願っています。そして鳴瀬先輩が総代表となることも」
「なッ………」
斑目先輩の言葉に、今度こそ皆川先輩は眼を見開いて言葉を失った。
「これからの西園寺会長親衛隊は、市川役員補佐親衛隊、そして大倉会計親衛隊との連携で行います」
一枚の紙。
それはさっき牧野先輩が提出した、「同好会申請書」。
「許可を、お願いします」
媚びるような視線でも、泣きつくような視線でもない。
まるで挑むようなその顔に、司は口を押さえて笑った。
「俺にそんな態度取るやつなんて珍しいな。ファンじゃねぇのかよ」
「嬌声をあげて騒ぎ立てることも出来ますよ」
貴方がお望みならば。
そう言って、その人――鳴瀬先輩はニッコリと笑った。
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