入学
頭に黒スプレー。
白に近い金色の髪を真っ黒に染め上げるためには、スプレー丸々一本使わなくてはいけないことが発覚した。やっぱり金が勿体ないから、ヅラにしよう。次の休日は街に下りよう。
ぐしゃぐしゃにかき混ぜ、ビン底の眼鏡装着。
「……オタクみたいだな」
玄関にある全身鏡に写るのは、もっさもさのオタク。うーん……やり過ぎたか?
でもアイツから逃げるにはこれくらいしなくちゃダメだよな。髪色を見られたら一発でバレてしまう。
ストライプのネクタイをぐっと絞めた。
今日から俺は、古賀学園の生徒だ。
◆
教室は西校舎三階。
若干迷子になりそうだったけど、無事着いた。迷子になりそうになる学校ってどーなの? いいの?
教室の席順は決まってるらしい。黒板に貼ってある座席表を見て、自分の席を確認した。こういうのって大抵名前順だから、「い」ちかわ、の俺は小学生の時から大抵前の席。このクラスでは有坂君のおかげで、廊下側の前から二番目だ。
「誰?あれ……」
「外部生だよ、ほら噂の……」
「オタクじゃん!」
聞こえてるし。
さっきから俺をじろじろと見るやつ。ひそひそと囁くやつ。
そういうこそこそとしたやり取りは、嫌いだ。女子か!と思って見ると、女子か?っつーくらい可愛い集団が肩を揺らした。
………あれ男だよな?
今朝、寮の食堂に行ったときも思ったけど、この学校は顔のレベルが全体的に高い気がする。ヘッドフォン付けた、目の大きい人とかヤバかった。正直女の子だったら普通に惚れてた。
昨日の腹黒王子も人形王子もそうだし、すれ違った眼鏡君もだし。………あ、ネチネチ理事長も美形だったな。俺、美形じゃないけど大丈夫ですかー。
早速自信をなくして落ち込んでると、教室が急に騒がしくなった。
「あれ、もう一人の……」
「めっちゃ綺麗じゃん!」
「編入試験満点だったんだろ? アイツ」
「うわ、テストの順位下がるっつーの……」
何だ?
何が始まったのかと思っていたら、左隣でギギ、と椅子を引く音がした。
「あ」
昨日の。
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