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流されて小会議室
 
 
 ポメラニアンにチワワ。チワワ。時折見える大型犬は、また幻覚だと思いたい。可愛い系の子に好かれるならともかく、見るからに男です!というやつに好かれるのは、何となく怖い。
 そんなわんわんふれあいパーク……ではなくて小会議室には、ざっと二十人くらいの生徒が集まっていた。皆、犬のようなキラキラとした目を俺に向けている。


 「さーあ皆、市川様がいらっしゃいましたぁ!!」


 前園先輩が言うと、それまで座っていた生徒たちは、一斉に立ち上がって拍手をした。何だこれ。
 とりあえず俺に拍手をしているらしいことは分かったので、礼をすると、ますますそれが大きくなる。逆効果じゃないか。

 顔だけは可愛い二人、牧野先輩と前園先輩は、思ったより強いらしい。あれだけ走ったのに息も切らさずニコニコと笑っている。


 「さぁ、市川君」
 「ようこそ親衛隊発足式へ!!」


 とりあえずお座り下さいと背中を押され、たとえ話じゃなくてマジで背中を押され、強制的に椅子に座らされた。
 目の前にあるテーブルに、親衛隊の皆さんが次々とお菓子を載せていく。「さぁ食べて下さい」と言わんばかりだけれど、ここまで集まられたら逆に食べにくい。
 しかし、「要りません」なんて言おうものなら、目の前のわんこたちの耳は揃ってぺたりと垂れてしまうだろう。それが怖くて手近なうまい棒を掴むと、「キャー!」と声が挙がった。「どうしよう、あれ僕が選んだやつだよ!」「ずるい!僕もうまい棒にすればよかった」「やっぱ庶民的なのがいいのかなぁ……」。ますます食べにくくなったけれど、一度掴んだものを戻す方が居た堪れない。全員から注目されて、こっちが動物になったような気分だった。


 「こら、市川君が怯えてるからあんまり近づかないの!」


 前園先輩がぴっぴと片手でわんこたちを追い払い、「えーずるいー」「だって見てたいんだもん」と残念そうな声が挙がった。
 どういう反応をしていいのか分からずにそれを眺めていると、「ごめんなさい」と隣に立っていた牧野先輩が苦笑いを零した。


 「あ、いや」
 「驚かれたとは思うけれど、ここにいる皆、市川君を慕って集まった者ばかりです」
 「いや、でも俺親衛隊なんて……」
 「わかってます。従来の親衛隊に、良いイメージなどないでしょう」


 寂しそうな顔。
 確かに俺は入学して早々、何と男に強姦されそうになった。それは司の親衛隊隊長が指図したことだったらしい。正直言って、「親衛隊」という組織にいい印象は持っていない。


 「はぁ……」
 「でも僕らは、違います」


 牧野先輩は、キッと前を見据える。どれだけ小柄で可愛くても、この人は男なんだな、と思わせる表情だった。


 「キャーキャーと騒ぐだけでは、ただのファンクラブです。僕らは市川君をお慕いし、学園生活を快適なものにするため、最大限の努力を惜しまない所存です」


 気づけばお菓子の山の向こうに、ふれあいパークの皆さんが整列していた。手にしたうまい棒と掌の間に、じわりと汗が滲んでいる。


 「どうか親衛隊の発足許可を!」
 「お願いします!」
 「お願いします!!」


 一気にがばっ!と下がる頭、頭、頭。


 「………えー」


 間の抜けた俺の声が、小会議室に響いた。




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あきゅろす。
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