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親衛隊発足

 
 「初めまして、市川君」


 教室の外に出ると、ふわふわの茶色い頭がペコンと下がっていた。
 顔を上げれば、ポメラニアンがいた。隙間なく生えた睫毛となつっこい笑顔は、小型犬と呼ぶに相応しい。


 「第三学年Sクラス。牧野 栞です」
 「………はぁ」


 ニコリ、と笑顔を向けられ、俺もつられてへらりと笑うと、隣から「馬鹿面」と声が聞こえてきた。
 そんな木崎はさておいて、俺に何の用だろう。生徒会に入ってから、呼び出しと言えば「制裁」と名の付いたリンチ(未遂。逃げた)ばっかりだから、何となく緊張してしまう。
 でもこの人は、何となくそんなことはしなさそうに見える。単に可愛らしい容姿と、纏うふわふわの雰囲気がそう思わせられるだけなのかもしれないけれど。

 可愛いなあ、触っていいかなあとぼんやり考えていると、牧野先輩は一層笑みを深くして、


 「本日付で、市川 晶様の親衛隊隊長となりました。以後よろしくお願いします」
 「はぁ……………はぁ!?」


 ぼんやりとしていたらオーケーを出してしまいそうになり、慌てて声を上げる。
 親衛隊?俺の?
 嘘だろうと目を丸くする俺に、これが現実だとでも言うように牧野先輩は続けた。


 「隊員は揃ってます。つきましては本日の第一回親衛隊会議に参加していただき、書類にサインを………」
 「ちょちょ、ちょっと待ってください」


 待て待て待て待て。
 勝手にすらすらと進めていく牧野先輩を制するように両手を挙げると、先輩は小首を傾げて俺を見上げた。「何か問題でも?」と言いたげなその表情は、純粋そのものだ。


 「……マジですか?」
 「はい」
 「断ります無理です」


 そんな、俺は、親衛隊なんてものを作ってキャーキャー言われるような人間じゃない。俺にキャーキャー言うくらいなら、ホラー映画でも観ていた方がましだ。何か得られるものがあるような気がする。


 「えぇー? もう人数集めちゃったのに」


 しゅんと項垂れる牧野先輩の頭に、ぴよっと耳が生えた。………何だろう、幻覚かな。心なしか犬の耳に見える。ぺたりと垂れた耳に、俺は小動物に対するときめきにキュンとした。


 「あ、あの、すいません俺、」
 「とにかく!」


 一人あわあわと慌てていると、牧野先輩は急に頭をガバリと上げた。そしてどこから出したんだか、ホイッスルをピィィと鳴らす。


 「行きましょう、小会議室へ」
 「市川役員補佐親衛隊の前園 知樹です!趣味はお菓子作りです!」
 「えっ、ちょ、待っ」


 ぎょっとする俺が固まっていると、突然前髪をゴムで結んだ――…前園先輩が、ガシッと俺の腕を掴んだ。
 あまりの展開の早さについていけない俺の、反対の腕に牧野先輩がそっと触れた。


 「……え゙」
 「参りましょう、市川様!!」
 「…………ギィヤァアアアア!!!」


 拉致られた俺を見て、木崎がため息吐いたのは言うまでもない。




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あきゅろす。
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