--03
切羽詰まる佑介と裏腹に、俺はいまいち状況が呑み込めない。変装って何だっけ、変装、変装、と記憶をうにうにと辿る。
「あ」
そこではたと思い出す。
そうだ、俺は入学して一週間ほど、変装をしていたんだった。
「バレた」
「バレたのかよ! え、いつ!!」
「んー……一週間くらい」
「じゃあ結構最近じゃん」
「あ、入学してから一週間くらい。な」
「すぐじゃん!!!」
すぐですね。
今更開き直った俺は「まあ、いずれバレてたし」とふんぞり返る。これは自棄とも言えるものだった。
「えー……」
ノッてくれると思っていた佑介は、そんな俺に若干引いているようだった。俺は何だか急に気恥かしくなり、背を丸めてポテトをつまんだ。
「大丈夫かよ」
「うん。へーきへーき」
「変装した意味ねぇじゃん」
「いや、一応あったよ」
入学してから今までのことを思い返す。
まだ一ヶ月しか経っていない。けれど、一番大事なものはもう見つけたんだ。
「友達出来た」
◆
バスの中から眺める空は薄暗く、夕方だというのにもう星が光っている。
遠くで夕陽が沈む。紅より茜より桃色。あの夕陽を見ていると俺は、決まって同じことを思い出す。
『物怖じしないっていうか、警戒心ないっていうか』
それは、小学校に上がる春のことだった。
俺の住むアパートの隣には、小さな公園があった。仕事で家を空ける母さんは、「夕陽が沈むまでなら」とそこで遊ぶことを許してくれていた。アパートに住む他の子もいたから、安全だと思っていたのかもしれない。
トンネルを作っていた。砂場の砂をかき集めて、山を作る。子どもの手で真ん中に小さな穴を空けた。けれどあっさりとそれは崩れてしまう。悔しくて何度も挑戦して、と繰り返しているうちに、友達は皆、お母さんに迎えられて帰っていく。俺は悔しくて、トンネルの穴を掘るまで帰らない、と意地になっていた。
「砂遊び、楽しいかい?」
不意に影が落ちた。
見上げると、すぐ近くに男の人が立っていた。西日が眩しくて目を細めた。だから顔は思い出せない。
「ううん。楽しくないよ」
「一生懸命やってただろう」
「だって悔しいんだもん。絶対、トンネル出来るまで、帰らない」
俺は再びぺたぺたと、トンネルの強度を上げる作業に入った。手のひらで砂の山を叩く。
彼はそんな俺を見て低く笑った。
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