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そうやってじゃれあいながら、駅前のファーストフード店に入った。昼は学食で食べてきたから、と飲み物だけ注文する。
ここの店の大通りに面した席は、俺と佑介の特等席だった。勿論「特等席」と言っても、自分たちが勝手に思っているだけで、混んでいるときは店内どこも座れないなんてザラだ。
ゴールデンウィークにわざわざファーストフードなんて食べないのか、昼を過ぎた時間だからか。店内は空いていたため、俺たちはお互い迷わずカウンター席に着いた。座るなり、佑介はトレーにポテトをワサワサと落とす。
「高校どー? 楽しい?」
はい、とトレーを中央に置きながら佑介は言う。
「うーん。楽しいっちゃ楽しい」
「何だよそれ!」
「何かジェネレーションギャップ? 国民性? カルチャーショック?」
とにかく価値観が違う、と締めくくると、「全然分かんねぇよ」と言われてしまった。
つまらなくは、ない。楽しいと言えば、まあ楽しい。けど寮の風呂にマーライオンが付いていたり、学食がカード式だったり、生徒会室に行くと普通にお茶が出たり。それを皆普通にやってのけるから、俺の十五年間の「常識」というものが崩れていく。いつの時代も少数派は大多数に敵わないのか、と嘆くと、木崎は言った。
「長いものには巻かれておけ。そして頃合いを見て、内側から食せ」。
俺と同じ庶民出身のくせに、肝が据わっている。ビビりのヤンキーよりはよっぽど肝が据わっている。言ってることの意味がいまいちよく分からないけど、木崎は「長いもの」について何か、ロールケーキとかと勘違いしてるんじゃないかと思う。
「まー最初はお前が貧乏臭すぎて浮いてるんじゃないかと心配してたけど?」
「悪かったな貧乏で」
人間、本当のことばっか言っちゃいけないんだぞ。
目の前にあるポテトすら食べにくくなって手を止めると、「まぁ食えや」とトレーをこっちに押しやられた。
「晶って順応性高いし。心配いらなかったな」
それ、褒めてんのか?
「いや褒めてる褒めてる。物怖じしないっていうか、警戒心ないっていうか」
「それ褒めてねーよ」
「まぁ、そのあほ犬並みの懐っこさがあるから、黒崎さんや赤峰さんとお近づきになれたんだよなぁ」
最早完全に貶している佑介は、ポテトを数本口に咥えうんうんと頷いた。それはお前、セレブにしか出来ない食べ方だぞ。
中学の頃、命知らずの大馬鹿野郎だった俺は、荒れ果てた夜の街を立て直した………ということに、なっている。念のため言うと、俺は二大チームのトップ・黒崎さんと赤峰さんの喧嘩を止めただけであって、町興しなんてしたつもりはない。けれど噂には背びれ尾ひれが付きまくり、俺は「夜の二大チームの抗争に終わりを告げた美少年・月兎」ということで伝説化してしまった。ここでも修正を加えると、俺は別に美少年じゃない。ただ、あの日は夜だったから、照明効果で二割増くらいになっていたのかもしれない。
とにかく実際は何てことはない、ただ「俺の居場所が荒らされてる」という意識が働いただけだ。
あの頃の俺には、ここにしか居場所がなかったから。ここにいられなくなるのは嫌だったから、止めた。それだけの話だ。
まあ、そのお陰で何故か二人には気に入られて、前よりも夜の街は歩きやすくなった。絡まれることも少なくなった。結果的には良かったのかもしれない。
「そだ。黒崎さんと赤峰さんは?」
「知るかよ。俺があのお二人と気さくに話せるわけねーだろっ」
お前と一緒にすんな、と口にポテトを捻じ込まれ、俺は呻いた。
「………だって司は"Rouge"も"Noir"も入ってないし、晴一さんはそういうの聞きにくいし……」
「つかさ……って、お前司さんに会ったのか!?」
ムグムグ口を動かし、手を使わないでポテトを食べる。
ごくん、と飲み込むと喉に引っかかったような気がして、コーラに口を付けた。
「会ったよ」
「変装は!? バレた!?」
「変装?」
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