さかさまの愛に 「木崎!」 既に小さくなっていた背中を、慌てて追いかける。 木崎に追いついたのは、中央校舎の南廊下。若干息の切れる俺にも容赦はなく、木崎は歩みを緩めようともしない。 「何だ」 「いや、何つーか、言い過ぎじゃないかなーなんて」 あいつ泣きそうだったし。 そういえば前に助けてくれたときは、俺を襲ったやつだけじゃなくて、司の親衛隊まで鎮めていた。そこまでコテンパンにしなくてもいいんじゃないかなー、なんて俺は思う。 そう言うと、木崎はやっとこちらに視線を寄越し、何とも言えない表情をした。 「あいつを庇うのか?」 「え?」 「鼻に掛けられる程度の家柄しか持ち合わせていないやつは、その鼻をへし折ってやればいい。お前は、それくらいの力を持っているだろう?」 再び視線が前を向く。歩みは一層速くなり、木崎の横顔すら見えなくなってしまう。 だから、表情はよく確認出来ないけど、もしかして。 「………俺のこと、庇ってくれた?」 ピタッと、木崎の足が止まった。 「助けてくれたのか?」 「………別に」 「俺のこと庇った?」 「庇ってない」 木崎はまた、早足で歩き出す。 それでも、立ち止まって「行くぞ」と振り返るのが嬉しくて。 「ありがと、木崎」 「……ッ」 走って追いつき、木崎の首に思いっきり抱きついた。 ちょっと絞まった気もするけど。愛情表現ってことで、許して。 「俺、木崎のこと好きだよ」 木崎は目を見開いて固まった。 「………は?」 行き交う生徒たちが、じろじろと俺らに注目する。あ、ここ廊下だった。 「ご、ごめん木崎!」 「………僕は男だ」 「え? ってそういう意味で言ったわけじゃ!!」 「当たり前だろう。気色悪い」 そんな嫌そうな顔しなくても……。 [←][→] [戻る] |