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仏の顔は二度もなし
   
 
 「木崎……たすけてしぬ」


 結局、「生徒会選挙の後始末」は土日も引き続き行われ、やっと終わった月曜日。


 「楽になれて良かったじゃないか」


 「えびかに大合戦」とかいう名前の、エビフライとカニのサラダがついた定食を食べながら、木崎はのんびりと言った。


 変装する必要がなくなった俺は、眼鏡を外して地毛のまま登校した。
 そうしたら「あれ誰!?」と叫ばれ、「転校生ですか?」と素で尋ねられ、担任・鳴海にまで「………誰だお前」とか言われる始末。ひどくね? 遅刻して教室に入った木崎が「早いな市川」と言ってくれなきゃ、多分一生気づかれなかったんじゃないか。
 その鳴海が朝のホームルームで、俺の生徒会入りを発表した。その連絡事項は他のクラスにも伝わっていたらしく、中休みのたびに「市川って誰?」とクラス学年問わず、教室には客が絶えなかった。

 俺はもうぐったり。
 同じく風紀委員会に入ったことを発表された木崎は、「あのぉ、風紀の木崎君って誰ですか?」と聞かれても平然としているんだから、かなり強かだ。


 「カレーうどん……」


 俺はカレーうどん「白蛇のマハラジャ」を箸でつまみ、ぼんやりと言う。


 「カレーうどんがどうかしたのか?」
 「………いや別に」


 俺は限界かもしれない。

 ふらふらとする足で、食べ終えた食器を戻そうとカウンターへ向かう。月曜日からこの調子じゃ、今週はどうなることやら。考えながらトレーを置くと、思ったよりも力が入らなかったらしく、乱雑に置かれたそこからガシャン、と大きな音がする。その音に驚いたらしい、隣にいた生徒の肩がびくりと跳ねた。


 「あ」


 その顔に見覚えがあり、俺は思わず口を開いた。
 この前、学食で俺に絡んできたやつだ。誰だっけ………そうだ、矢嶋だ。

 矢嶋は最初ポカンとしてたけど、ハッとするなり眼の力を強め、俺を睨んできた。


 「ふん。随分綺麗になったみたいだね」


 ………綺麗?
 いやまぁ、あの変装は確かに不潔だったかもしんないけど。


 「オマケに生徒会にも入って、西園寺様に取り入って……あ、今日はもう一人の特待生も一緒? 庶民同士お似合いだよ」
 「なッ……!!」


 俺はともかく木崎まで馬鹿にされると、さすがに黙っていられない。
 しかし当の木崎は冷静に「誰だそれは」と割り箸をゴミ箱に棄てていた。反応薄いなお前。




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