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眼鏡を掛けた先輩――…桐生先輩は、司の態度に目つきをますますキツくした。
「そもそも今は授業中だ。授業中に校内放送を、私用で行うなど言語道断だ。生徒の代表としての慎みを持て」
自分が睨まれているわけでもないのに背筋を凍らせていた俺は、その声にはたと気づく。
ん、授業中?………サボってるよ俺!!
慌てる俺の気持ちを察したのか、「生徒会役員は生徒会活動による授業の欠席を認められてるから大丈夫だよ」と紫先輩が微笑んだ。この状況でもお茶を飲んでいられるのは凄い。
………ていうか、これ生徒会活動?
「まあ、ロスよりもトラブルを回避できたことの方が大きいから、目を瞑ろうじゃないか」
その時、ゆったりとした癖のある、高めの声が生徒会室に響いた。
「上ノ宮?」
「チカ、」
「トラブルと言えば、毎年行われていた選挙の後始末か。職員会議は通ってるし、選挙当日の大講堂の装飾業者も手配している。まあどのみち、風紀には関係ないね」
茶色い髪に黄緑のヘッドフォン、シャツの上からパーカーを羽織っている。大きな目はどこか冷めたような、それでいて意志の強そうな輝きを湛えていて、近江先輩がチワワだとしたら、この人は猫みたいだ。
どこかで見たことがあると記憶を辿れば、木崎と一緒にいるところを、そして寮の食堂ですれ違ったことを思い出した。ということは、この人も特待生なんだろうか。
「……おい」
「風紀には風紀本来の仕事がある。僕らは忙しいのだよ」
ヘッドフォンを付けた先輩――上ノ宮先輩は「それから、」と続けた。
さっきまでは飄々としていた司の顔が、若干引き攣っている。
「来週行われる委員会議で配布する冊子の、生徒会役員募集要項も訂正しなくてはいけないね。全校生徒ぶん」
ガンバるのだよ、と言い残し、上ノ宮先輩はひらひら手を振りながら生徒会室を出て行った。
桐生先輩も不服そうにしながら、その後をついて行く。
………えーっと、状況が呑み込めないのデスが。
何だかヤバいということだけは、分かる。
「………さぁ、頑張ろうか晶」
「はぃ?」
若干血色の悪い紫先輩が、プリントの束をどさっと長机に乗せた。
「………え」
「これのホッチキスを外して、役員募集のページだけ抜き取って、また留める」
「は!?」
これ一つひとつ、全部やれってか!?
冊子の束は俺の身長なんて余裕で越えて、もしかすると司の背くらいはありそうだ。床に下ろしても、俺の腰の高さまでは来てしまうだろう。
「全校生徒ぶんあるからね。……僕は職員室に行ってくるから」
「………俺はデータ差し換える」
「休み時間になったら放送で大倉と近江も呼ぶよ」
「頼む……」
「じゃあ頼んだよ」
「はぃ!? あの、」
紫先輩はふらふらと頭を抱えながら、生徒会室から出て行った。司はダルそうにパソコンに向かう。
俺はアホみたいにあるプリントの束を一つずつホッチキス外して………。
生徒会、辞めていい?
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