--03
頭に水ぶっ掛けられたし、眼鏡は奪われたし。
散々だったけれど、あれも一応木崎なりの優しさなんだ。うわ、どうしよう、頬熱い。
「美作先輩……!」
「え?」
「嬉しいです俺、木崎が俺のこと、そんなに考えてくれてて!!」
「その顔は可愛いけど……司が可哀想だな」
司も色々してあげてたのにねー、と美作先輩。
だって司は自業自得だもの。木崎は友達だもの。嬉しい、凄い嬉しい、にやにやしちゃう。
「あ、こんなときに悪いけれど」
崩れきった顔を引き締めようと頬をパンパン叩いていると、美作先輩が思い出したように言う。
「僕の名前、呼ばないでほしいんだ」
「え?」
「あぁ、名字じゃなくて名前で呼んでほしいってこと」
名字じゃなくて名前、って。
何でだろう。その方がより親しく感じるからかな。俺としては別に構わないけど、一応先輩だから名字で呼んでたんだけどな。そういう気遣いいらないタイプの人なんだろうか。
「紫、先輩?」
「うん。いいこいいこ」
いい子だからお菓子あげるね、と紫先輩は満足げに立ち上がり、生徒会室の奥に消えていく。何枚かのパネルで仕切られた奥が、キッチンになっているらしい。
ん、何か今、子供扱いされたような気がする。
まぁいいかと単純なことを考えつつ、俺は紅茶のカップに口をつけ、
『――全校生徒の皆様に、生徒会よりお報せが御座います』
口に含んだ中身を、思いきりぶちまけた。
「ななななな………」
「あれ、司だね」
『この度、今年度生徒会役員補佐として、新たに役員を選出致しました』
びっくりした! いきなり放送掛かったからびっくりした!!
つーか司お前、入学式の時から思ってたけど、このしゃべり方キモいよ。
……いや、ちょっと待て俺。
さっき生徒会室を出てったのがこの放送のためだとしたら、
『――…第一学年Sクラス、市川 晶』
予感は、的中した。
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