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さかさまの愛を
 
 
 意味不明な言葉を残し、司は生徒会室を出て行ってしまった。
 それに続いて「お菓子足りなーい」と、近江先輩が空になった皿を残して出て行き、部活の昼練習があると言う大倉先輩もふらふらと立ち去って行く。顔が真っ青だったけれど、あの砂糖紅茶が原因ではないだろうか。いや、違う。違う、と思いたい。

 ぽつんと残された俺に、「お茶を淹れるね」と言った王子様は、美作 紫という名前らしい。


 「さっきは職員室に行ってたんだけど」
 「はぁ」
 「帰りに学食の前を通ったら、騒がしくて。何事かと思ってたら、司の親衛隊に囲まれてあぁだこうだと訴えられたよ」


 第一学年の特待生と司が抱き合ってた、って。
 美作先輩はそう言いながら、ポットのお茶をカップに注ぐ。

 いや、抱き合ってたんじゃなくてこう、一方的にね、されてたんですよ。

 それでも親衛隊とやらの間では、抱き"合ってた"ことになっているらしい。本当、やめて。男同士で抱き合うとか、洒落にならないから。


 「………終わった」


 俺の平和な学園生活が。
 普通に友達作って、普通に楽しく過ごすはずだったのに。初っ端からつまづいて、今日こんな出来事があって、今更巻き返せるわけがない。ホモのレッテルを貼られて終わるだけだ。さようなら、俺の青春。


 「司は君を庇ったんだと思うけどなぁ」


 頭を抱えていると、先輩は穏やかな口調でそう言った。


 「え?」
 「だって、昼の学食であんなことすれば、確実に学園中に広まる。明日には全校生徒が知ってるだろうし、過激な親衛隊からの制裁は免れない――良くて嫌がらせ、最悪の場合はリンチや強姦も考えられる」
 「………」


 制裁? リンチ、強姦?
 それは王子様が、「ハイ」といい香りの紅茶を差し出しながら放つ単語なのか。違うだろ。違うと言ってくれ。


 「君が生徒会に入れば、゙生徒会゙親衛隊と名が付く以上、親衛隊は君に手出しを出来ないからね」


 だから生徒会に君を入れようとしたんじゃない? と美作先輩。
 うぅん、一応筋は通ってるけど、あいつがそこまで考えるかなぁ。考えてたとして、「昼の学食であんなこと」をしたのは、司ですからね。美談で終わらせようとしてるけど、元凶は司だからね。司が俺にあんな熱い抱擁をしなければ、そんなことにはならなかったはずだからね。


 「君を生徒会に入れることで、司なりに君を護ろうとしてるんだよ」
 「………」


 だから護るとか言われても、そんな。

 何となくもやもやする気持ちで、何を話していいのか分からずに、出された紅茶を口にした。甘酸っぱいような、懐かしいような、そんな香りがする。
 美作先輩のクスクスと笑う声で、自分の頬が緩んでいたことに気づいた。慌てて表情を引き締める。




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あきゅろす。
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