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はらりとハンカチが落ちる。
司が王子様の腕を払ったらしい。二人の間の空気が、ピリ、と張りつめる。
「………ふぅん。随分御執心みたいだね」
魔王降臨!!!
王子様は楽しそうにしているけれど、眼は笑っていない。背後には魔王が見える。
「……るせぇな。つーか何。知り合い?」
「うん。この子が学園に来て一番最初に知り合ったのが僕」
「は? てめぇ手出してねぇだろうな」
挑発的な言い方をする王子様に、司の眉間の皺がますます深くなる。
おぉい、これは学食のときよりマズイんじゃないか。ちらりと応接セットの方に視線を送るも、近江先輩はクッキーに集中していて気づいていない。大倉先輩の姿が見えないと思えば、ソファの脇から黒い影がはみ出している。巻き込まれたくなくて逃げたのだろう。
「気になるんだ?」
「黙れ」
「教えてもいいかな? 晶」
王子様は俺に向かってニッコリと笑う。俺に振るかよ。
大したことはしてないのに、わざと含みのある言い方をする王子様。その挑発にあっさり乗った司が、ぐっと胸倉を掴み上げた。
「勝手に名前で呼んでんじゃねーよ」
「司の許可なんていらないでしょ?」
「………くそっ」
「!! やめろ司!」
振り上げた拳を、左手で受け止める。
利き手じゃないからか、力がいまいち入らなくて、ジンと痺れが腕を支配した。
「落ち着けよ! そんな簡単に人殴んな」
今、次に俺に向かって来られたら抵抗出来ないかもしれないなと思いながら、腕の力を抜いた。多少身構えてはいたけれど、司は仕掛けてくるどころか逆に拳を引いて、チッと舌打ちをする。
とりあえず収まったか。
だから王子様、クスって笑うのやめてください。次は止めないからなー。
未だに痺れの取れない左手をブンブンと振っていると、視線を感じた。
見れば司が、深刻な顔で俺を見ている。俺の顔に何か付いてるのか。それとも俺の可哀想な左腕に謝る気になったのか。どのみち人をジロジロ見てはいけません。
「今なら許してやってもいーぞ」
ぴっと左手を掲げて言えば、何と司は、呆れたようなため息を吐きやがった。ちょっと待て、ここで俺が呆れられる意味が分からない。
「晶」
「何だよ」
そして、俺が予想もしていなかった言葉を告げたのだった。
「お前、生徒会入れ」
「はぁ!?」
何でそうなったんだ。
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