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 それでも聞きたいことがあるから、俺は唾をゴクリと飲んで口を開いた。


 「俺の父さんって―――」
 「君はお父上について何一つ知る必要はない。これは父上のためにも、君のためにも、だ」
 「ッ!!」


 冷酷な眼。
 最後まで話させてもくれない。


 「君に直接的な干渉をしないのが、父上なりの君への愛情だ。……そうそう、君が古賀学園に特待生として編入学出来たのも、全て君の父上のご厚意だ。くれぐれも、父親について何か探ろうなどとは思わない方がいい」


 それは暗に、父さんのことを知ろうとすれば退学、ということを示している。


 「私からは以上だ。これからもう一人の特待生と会う約束がある」


 カッと顔が熱くなった。

 ソイツは実力でこの学校に入ったんだ。
 俺みたいにじゃなくて。


 「……失礼します」


 そう頭を下げるだけで精一杯だ。これ以上何か話せば、余計なことを言ってしまいそうなくらい、俺は爆発寸前だった。


 「よい学園生活を」


 俺は理事長室を出るとき、思いっきりドアを閉めてやった。


 ◆


 イライラする。

 無駄にヴェルサイユな柱も、壁紙も、シャンデリアも、全部あの理事長の趣味なのかと思えば腹が立って仕方ない。


 「サド理事長! 生徒を虐めんな!!」


 腹いせにエレベーターホールにあった柱を蹴ってやった。
 あんな言い方する必要ねぇだろ! ネチネチネチネチ! 俺に何の恨みがあんだよ!!


 「………痛ってぇ」


 お金持ち学校の柱はそれなりの堅さらしく、爪先がジンジンしてきた。その痛みで、俺の怒りはシュウと萎んでいく。


 「………絶っっ対卒業してやる」


 冷静になって、俺は誓った。
 もしここで何か問題を起こしたり、起こさなくても授業をサボって退学にでもなったりすれば、あの理事長はほくそ笑むだろう。それに、母さんだって悲しむに違いない。

 三年間。
 父さんからの唯一のプレゼントだと思って、受け取ってやろうじゃん。


 ぐっと握りしめた拳を開き、エレベーターのボタンを押そうと腕を伸ばすと、その前にエレベーターが開いた。
 丁度到着したところらしい。ラッキーだ。中からは入れ違いに人が出てくる。


 「あ」


 すれ違う瞬間、正直見惚れた。

 そいつは無表情で俺の脇をすり抜けて行く。
 真っ黒い髪。シルバーフレームの眼鏡。細い身体は俺より少しだけ目線が高い。

 意志の強そうな瞳。
 男にこんなこと言うのはどうかと思うけど、


 ――"綺麗"だ。


 そいつは俺に気付くこともなく、理事長室の方に向かって行ってしまった。


 「……あ。おーい!」


 まさかあのサド理事長と会うんじゃないだろうか。だったら忠告してやらなくちゃいけない。
 慌てて呼び止めようとしたものの、そいつは曲がり角の向こうに消えていってしまった。


 ……ちょっと罪悪感。




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