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「………甘すぎ。病気に、なる」
「僕は飲めるもん」
「響は………違う。舌、へん」
「何それー!」
ぼそぼそと話す大倉先輩に、キャンキャンと食って掛かる近江先輩。二人のバトルは白熱し、俺は一人取り残される。
そもそも、俺は何でここにいるんだろう。いる意味なくね? 帰っていいですか?
ちらりと窓辺を見遣ると、司が窓枠に寄りかかって外を眺めている。
組んだ腕の隙間から見える指が規則的に動き、コツコツと腕を叩いている。………機嫌悪いな、あれは。司はいつもそうだ、俺が他のやつと話しているだけで不機嫌になる。本人がそれを隠そうとしていることは伝わってくるから、俺としても言い出しにくい。話に入りたいならそう言えばいいのに、といつも思う。
テーブルに載ったクッキーを摘まみながらそんなことを考えていると、生徒会室のドアが開いた。
「二人とも騒がしいよ。廊下まで声が漏れてる」
気品のある、優雅な声。
「……俺、静かだった」
「あー! ユカリン聞いてよぉ、悠仁がアキちゃんのお茶飲んだのお!」
「"アキちゃん"?」
名前を呼ばれて、肩がびくりと跳ねた。
俺はドアに背を向けているため、声の主を見ることは出来ない。けれど確実に、聞き覚えのある声。
「さっき学食で拾ったのぉ」
つーくんが探してた子だよっ!とニコニコ笑いながら、近江先輩は俺の顔を無理やり後ろ側に捻った。
「ぅげっ」
「こら響、お客様が死ぬよ」
咎めるような科白も、本気で止めているようには聞こえない。見上げた先には金髪。碧眼。白い肌。
この学園に来たあの日、俺にキスをしようとしやがった、あの二重人格王子様だった。
「う、あ」
「初めまして、こんな可愛い新入生が入ってきたなんて知らなかったな」
お名前は? と貼り付けたような笑顔を浮かべる王子様。
"初めまして"? 俺にあんな仕打ち(未遂)をしといて忘れたんかおんどりゃあと凄んでみるも、そういえばあのとき俺は変装をしていて、今はそれをしていないということを思い出す。
もしかしてこれは、いい傾向じゃないか。
一度出会ったことを忘れているなら、俺が王子の偽物笑顔に気づいたという事実も無くなるのだ。存分にその素敵な仮面を被っていて下さい。そして俺に関わらないで。
しかし無情にも、それまで黙っていたはずの大倉先輩が、残酷な言葉を告げる。
「市川、晶。特待の」
オィイイイイ!!
今まで黙ってたのに、何喋ってんの。何でそこだけ喋るの。よりによってそのフレーズを。
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