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 「ガキの喧嘩で垂れ流せるほど、西園寺の血は安かねぇんだよ」


 責任感、とは少し違うんだろうか。
 義務感や使命と言った方が正しいのかもしれない。ふっ、と俺様全開不敵に笑う司に「うるさいよ糞ガキ」と赤峰さんが微笑むと、その不敵な笑みが引きつった。
 その反応に満足したらしい赤峰さんがさらに畳みかける。


 「その割に今回"Rouge"と一緒に動いてるよね。そんなこと言うならさっさと出てけばいいのに」


 あ、月兎はもっと居ていいんだよー? と笑顔で言われても、この状況で「ありがとうございますーじゃあゆっくりしていきますね」と言えるほど、俺も図太くない。まだ死にたくない。


 「今回はどんな心境の変化ー? 呆れちゃうよね、本当。そんなに大切なんだ?」
 「いや、俺ってよりはむしろ」


 ふと見上げると、こっちを見ていたらしい司と目が合う。
 ぱっと逸らして赤峰さんの方に視線を移すと、何故か赤峰さんは一層笑みを深くしているところだった。


 「あは。そー。へーえ。ふーん」
 「殴るぞ。あと今回誘拐されたやつ、お前んとこの副総長が惚れてるから」
 「でも月兎に似てんでしょ? エア穴兄弟?」
 「エアって何だよ。一緒にすんな、晶と木崎は似て非なるものなんだよ。ケーキとうんこみたいなもんだ」
 「それ似てないと思うよぉ」
 「お前ルイに似てるからって白薙 北斗抱けんのか」
 「んー……」


 その沈黙、怖いです。
 何となく話が嫌な方向に進みかけたところで、倉庫の入口が勢いよく開いた。


 「晴一さ、」
 「おーかえりー晴一、千尋」


 息を切らした晴一さんと、隣に立つのは"Rouge"のメンバーだろう。千尋と呼ばれたその人は、地元の高校の制服を着ている。そういえば何度か見かけたことがある顔だ。
 千尋さんは地面に座る俺を見、切れ長の目を少しだけ見開いた。まあ、俺つまり"月兎"は"scopion"に拉致されたことになっているわけだから、その反応も当たり前だろう。


 「どったの? 何か見つけた?」
 「……"scopion"がまた出た。今度は外れの公園にある公衆トイレだ」


 二日で二人。
 「早すぎますよ」と千尋さんは悔しさを滲ませる。


 「次は誰ー? 白? それともまた黒?」


 まさかうちのメンバーじゃないよね、と笑う赤峰さん。「"Rouge"にそんな弱いやつはいらねぇんだよカス」という裏が見え隠れしていて恐ろしい。地面に拡げたままの地図を指で辿り、公園らしき場所を探す。


 「……一般人だ」


 キュッ、とペンの蓋を捻る手が止まった。


 「白でも黒でも赤でもない。まったく関係ないやつを襲いやがった」


 警察に連絡してある、と晴一さんは告げる。
 これまでは、チームに何かしら関係のある人間が"scopion"に狙われていた。それだけならまだ、俺たちの側だけの話。司の言うところの、「ガキの喧嘩」で収めることの出来る話だ。


 「………随分、挑発的だねぇ」


 これは警告だ。

 悠長なことは言ってられない。
 チームに関係のない人間も容赦なく襲う。それが本当なら、木崎は今頃。


 「――――…」


 最悪の予想を振り切り、立ち上がる。
 休んでいる暇はない。早く"scopion"を、木崎を見つけ出さなくちゃ。


 ◇


 「みったん休めよ。俺こいつ見張ってるから」
 「そんな! そんなことさせるわけにいかないっす! 俺が見てますよ!」
 「でもみったん飯食ってなくね? いいよ、俺が見てるからさ」
 「申し訳ないっす! そうだ、ユウさんも一緒に食べないっすか!?」
 「俺食っちゃったよ」


 目の前で揉め出す「ユウさん」と「みったん」を、僕はぼんやりと眺めていた。
 時間の感覚がない。どれくらい経ったのだろう。隙を見て逃げ出そうと考えてはいたが、四六時中みったんが僕を見張っている。少し目を離したとして、両手を縛る縄はかなり固く結ばれている。脱出は極めて困難だろう。こうなったら助けを待つ外ないのだろうか。誰か助けに来るのだろうか。

 黒、白、赤。そう呼ばれた人物が、"月兎"がこうして監禁されている事実を把握しているならば、何かしらの行動に出ると僕は願う。市川がその三名から、何か恨みを買っていたなら話は別だが。「月兎? いいよあんなやつのたれ死ね」と思われていたなら最悪だ。過去の市川の行いが善行であることを願ってやまない。


 「見張りっつっても、こいつが何も吐かないから実質することなんてないっす。楽すぎるくらいっすよ」


 みったんこの野郎。
 吐瀉物でも巻き散らかして困らせてやろうかと思ったが、沽券に関わるため止めた。沽券に関わるとかそういう問題ではないのだが、念のため。


 「"月兎"さえ吐けばいいんすよ。ほら、早く黒と赤の居場所吐け」


 一瞬僕の脳内を読まれているのかと驚いた。
 僕の表情の変化に気づいたのだろう、みったんは更に調子づく。


 「何か言いたいことがあるみたいだな。聞いてやってもいいぜ、ほらほら」


 これが人に物を聞く態度なのか。
 油断させて頭突きでもしてやろうか、と考えたそのとき。


 「………」
 「………」
 「………」


 ぐぅ、とお腹が鳴った。
 そういえば、ここに来て何も口にしていない。



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