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朝陽が眩しくて、浅い眠りから覚めた。ふあ、と欠伸が出る。通勤中のサラリーマンがじろじろと俺たちを見ている。まぁ、ブルジョア御用達・古賀学園の制服を着た男二人が駅前広場のベンチで寝てるのだから、そんな視線を向けられるのも分かる気がする。どういう理由で見られているのかまでは、思い当たる節が多すぎて分からないけど。
今朝五時頃。結局"scopion"のメンバーを探すことは出来ず、諦めた俺たちはこれからに備えて少しだけ眠った。座ったまま寝たから、身体のあちこちが痛い。肩を上下に動かし、凝りを解す。広場にある時計の短針は、七を指している。
駅の中にあるパン屋さんが開いていたから、そこで食パンを買った。司の持っていたクレジットカード(ゴールド)が使えず少し手間取ったけれど、俺の持っていた小銭で何とか事無きを得た。ていうかお前、カード以外に金を持ち歩けよ。そして「何か貧乏っぽくね?」とかうきうきしてんじゃねえよ。貧乏舐めんな。
「今日どーするよ」
六枚入りの食パンを半分に分け、もさもさと食べる。鳩が集まって来たから、時折千切って分けてやった。鳩と同じ食生活というのは、何だか悲しい。
「昨日の眼鏡屋中心に動く」
「動くって」
「何か手がかりとかあるかもしれないし」
とにかく、"scopion"の居場所が分からない今、そうするしか方法がない。無謀だって分かってる。
「俺の目的は、木崎を助けることだから。黒も赤も白も、俺とは少し違うよ。だから司の考えと俺の考えが違うなら、別に一緒に行動してくれなくていい。俺一人で木崎を探すから」
手に付いたパンくずを払うと、鳩が一斉に集まって来た。最後の一枚をくわえ立ち上がる。
別に拗ねているわけでも何でもない。目的が違うなら、一緒に行動する義理はない。それだけ。
「……いや、俺も木崎探す」
司が俺の隣に立ち、フード越しに俺の頭をぽんと撫でた。別に遠慮しなくてもいいのに、とは思ったけれど、こいつはそういう遠慮をするタイプじゃない。
「嫌になったら途中から別でもいいから」。一応そう告げ、歩き出す。眼鏡店を出て以降、足取りは未だ不明だ。店が開いたら、聞き込みもしてみよう。出来ることなら何でもする。
「誤解すんなよ? 俺が一番大事なのは晶だから」
「どや顔がうざい」
◆
眼鏡店を出てからの、木崎の動きを予測する。再三言うけど、今はこの方法しかないから、アバウトすぎるけれど仕方ない。
ちょっとスタバで珈琲ブレイクとか、そういうタイプだとは思えない。趣味っていう趣味も思いつかないし、「暇つぶし」「木崎」という二語を組み合わせて思いつくとするなら。
「……散歩?」
「……何かぶらぶらしてそうだよな」
シャッターが閉まった眼鏡店の店先で、腕組をし唸る。木崎の行動パターンなんて、予測しても合っている気がしない。大体あいつは予測不可能なんだから。
「でも目的もなくほっつき歩くとかしなさそうじゃね」
「合理的じゃないとか言いそうだよな」
「言いそう」
目的。目的。目的。
「………分かんねぇ」
「晶が分かんねぇなら俺は尚更だっつの」
だって、分かんないものは分かんないし。
眼鏡店は大通りに面していて、道は左右に伸びている。左に行くか、右に行くか。それが問題だ。
再び考えたところで、ふと隣の敷地が目に入った。砂利の敷いてあるそこは、「月極駐車場」という看板が立っている。
「晶?」
そこに、一本の枝が落ちていた。近寄って手に取ると、俺の足よりも少し短いくらいのそれは、太さも割とある。折れた断面は比較的新しくて、酔っ払いが折ったのかもしれないと思った。
コンクリートの地面に立ててみる。歪みもないし、これは使えそうだ。
「これで行く」
「は?」
ぱ、っと枝を支えていた手を離す。枝はふらふらと揺れた後、右側に倒れた。
「よし、右行こう」
「………適当だなおい」
「考えても分かんねーじゃん」
「まぁ確かに」と半ば納得が行っていない様子の司を引き連れ、俺たちは右側の道を選ぶことにした。
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