[携帯モード] [URL送信]
--03
 
 
 ◇


 「つまり、赤と黒を誘い出す餌だったんだよ、ルイは。今のお前と同じで」


 目の前の少年の話は、分かりにくい。無意味な身振り手振りを交えてきたり、話が脱線したりと、つまりだらだらとしすぎているのだ。要点が分かりにくい。
 そのため僕がダイジェストでお伝えする。ルイという女性("黒"の恋人であったことが発覚)が現れる以前、この街の治安は最悪だった。"Noir""Rouge"そして"scopion"の三チームが主な勢力を持っていた。小さなチームは他に幾つもあったが、三チームのうちどれかの傘下である、というパターンがほとんどらしい。その風習だけは今も変わらず、"eden"という幻のチームだけが唯一最後までこの三チームに入らなかったという。それも踏まえ"eden"は幻のチームなのだが、この話はどうでもいい。脱線した。話を戻す。
 ルイという女性は、激化していた"Noir"と"Rouge"の抗争を止めるきっかけとなった女性だ。その後"Noir"と"Rouge"は、やり方は違えど街の治安を正すチームへと変化する。それを「牙の抜けた負け犬」としたのは、三チームの中で最も過激派である"scopion"だ。"scopion"総長・佐原は、街の平和の象徴であり、"Noir"そして"Rouge"にとって人質となり得る存在である"ルイ"を誘拐し、それを餌に"Noir"と"Rouge"を呼び出そうとした。しかし、"Noir"と"Rouge"はそれに応じない。"ルイ"も佐原を挑発する。気が立った佐原は"ルイ"を暴行し、結果彼女は死ぬ羽目になる。
 ルイが消えた街は、再び荒れる。誘拐の件で犯罪者となった佐原は、しばらく身を隠すことにする。"Noir"と"Rouge"が互いを潰し合い弱ったところを叩こう、と動かずにいたらしい。まぁ、そんな思惑などなくとも、犯罪者である佐原がのこのこ出て来られるはずもないのだが。
 しかし街の秩序を再び正した存在がいる。それが"月兎"、つまり市川だ。
 市川によって"Noir"と"Rouge"は、"ルイ"がいた頃のように穏健派となってしまう。こんなに方針をコロコロ変えていいものなのかというのは私見である。要するに市川という存在は"ルイ"に並ぶ、この街の平和の象徴なのだ。何だか駅前の裸の銅像の如き表現であるが、目の前の少年が言ったのだ。僕がそう表現したわけではない。

 まとめたところで長くなってしまったが、更に短く言うと、冒頭の一言に尽きる。
 街の平和の象徴・市川は、今の佐原にとって邪魔な存在だ。そして"黒""赤"両名に愛される、人質となり得る存在でもある。つまり、市川は過去の"ルイ"と同じ役割を果たす。

 何が言いたいかというと、市川(に、間違えられた僕)を人質とし、"黒"と"赤"を再びダークサイドに落とそうということだ。こんな過去話いらなかったが、暇つぶしにはなったので良しとしよう。下世話な昼ドラマを観ているような気分にはなれた。


 「……もっとビビれよお前。やっぱ肝据わってんのか」


 脳内をエンディングテーマが流れている僕を、少年はげんなりとした表情で眺めていた。ビビれ、と言われても、怖がる箇所がないのだからどうしようもない。「お前を挽肉にしてやるぜ」とチェーンソーでも持ち込まれれば驚いたかもしれない。どうだろう。


 「ま、要するにうちが最強ってことだよ!"黒"も"赤"も"白"も、うちには敵わねぇな!」


 そこが要点だったのか。
 ジェイソンさんのテーマをイメージした結果、ダースベイダーのテーマが頭に浮かんだ。……いや、それよりも、そこが要点ならばそれを先に言ってほしい。お前の長々としたくだらない説明を要訳した結果、長々とくだらない説明をしてしまった自分が恥ずかしい。


 「……て、」
 「ん? ようやく言う気になったか?」


 しまった。つい、ダースベイダーのテーマを口ずさみそうになった。
 慌てて口を噤むも、「とっとと言えよ」と迫ってくる少年。阿呆面下げていても、不良は不良だ。それなりに威嚇することは出来るらしい。こういうのを「メンチを切る」と言うのだろうか。


 「お前黙ってりゃ済むと思ってんのかよ?」
 「………」
 「何とか言えよ」


 少年の顔面が僕にくっつきそうなほど近づいてきたそのとき、人の足音が聞こえた。少し引きずるような、じゃり、と砂を含んだような音だ。


 「おいっす。何か聞き出せたかー?」
 「無理っすよ。こいつさっきから何も言わないっす」


 オレンジブラウンに髪を染めた男。どこかの制服らしいスラックスを履いている。僕が道を尋ねるため声を掛けたあいつとは、また別のものだ。前歯が少し大きく、人懐っこい印象だ。こんなやつでも不良なのかと思ったが、人を見た目で判断するのはあまり宜しくない。
 目の前の少年と、見張り役交替だといいと思った。オレンジ少年の方が、ホクロ野郎よりもまだ口うるさくなさそうだからだ。


 「あれ? みったん」


 ホクロ野郎の名前は、「みったん」というらしい。名前というより通称だが。
 オレンジ少年にまじまじと見られ、ホクロ少年改めみったんは「何すか」と首を傾げる。


 「こんなとこにホクロあったっけ」
 「どこっすか」
 「目の下。ほらここ」


 ちょんちょんとその場所を指で突かれ、「えーどうだったっけ」と真剣に悩むみったん。「どうだっけ、月兎」とのんびり問いかけてくるオレンジ少年。

 僕は黙秘を貫いた。



[←][→]

13/46ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!