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 現状をまとめる。

 僕は、"月兎"こと市川の代わりに誘拐された。
 ここにいる人間は、僕を市川だと勘違いしている。
 僕を人質に、「黒」「赤」「白」と呼ばれている人物を呼び出そうとしている。
 リーダー格の蛇顔の男は、「佐原」と呼ばれている。

 以上。
 まったく情報が少なすぎる。


 「おい、ガキ」


 後ろ手にがっちりとロープが結ばれている。昨日のように、力を込めたところで簡単に解けてはくれなさそうだ。何故二日間のうちに二度も拘束されなければいけないのだろう。二分の二、確率にすると百パーセントである。そんな百発百中はいらない。僕にそんな趣味はない。
 僕を拘束するよう指示した佐原そして"scopion"と名乗った集団は、僕を置き去りにしてどこかへ行ってしまった。残った少年(と、呼んで相違ないほど幼い顔立ちの男)は見張りのため、僕から「黒」「赤」の居場所を聞き出すためにこの場に残ったと思われる。向かい合って見下ろされるのはあまりいい気分ではないが、一人でいてもつまらないので、まぁよしとする。
 僕は、お前も餓鬼だろうと反論したかった。が、ぐっと黙っていることにした。もしも"月兎"もとい市川の声を聞いたことのある人間がいたとすれば、違和感を持つかもしれない。見た目が似ていたとしても、さすがに声までは似つかない。黙秘を主張するのは、そんな意味もあった。


 「佐原さんキレっとマジやべぇんだからな。早く黒と赤の居場所吐いた方がいいぜ」


 だから、僕が知るわけないだろう。こいつ、僕が声を発するよう促しているんじゃないだろうか。そう思うくらい口を挟みたい箇所が多すぎる。
 暇なので、目の前の少年のホクロでも数えることにした。短く切った茶色の髪から覗く額に、二つ。頬に一つ。顎に色素薄めのホクロが一つ。ホクロを数えるとホクロが一つ増える、というのは本当だろうか。増えろ、ホクロ。僕は念じた。


 「ルイって女みたいになりたくなけりゃな」


 "ルイ"。

 また登場人物が増えるのか。初登場のその名前は、耳にしたことのない響きだった。それが表情に表れていたのだろう、少年は「はっはーん」と組んだ腕から覗く指をトントンと叩いてみせる。


 「お前糞ガキだから知らないのか!かーわいそー、佐原さんのあれはこの街の常識なのに」


 だから、お前が餓鬼だ。
 しかも先ほどよりグレードアップしている。グレードダウンとも言えるが。

 この街の常識、と言われても、地元民でない僕にはそんなローカルルールは知らない。必要ない。
 脱出に必要な情報でもなさそうなので、引き続いてホクロでも数えることにした。ホクロが一つ、ホクロが二つ、ホクロが三つ。


 「教えてやるよ、佐原さんの話」


 教えたくて堪らない。そんな輝かしい顔が僕を覗き込む。犬みたいだと思った。放し飼いにした僕の犬は元気だろうか。
 欠伸を噛み殺しむぐむぐと口を動かすと、目の前の顔は怪訝そうに眉を寄せた。



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あきゅろす。
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