--02 「"いいんちょう"? あれ、ってか北斗と月兎、同じ制服じゃん。晴一も司もだし」 いーなー俺もお揃いがいい、と呑気に宣う赤峰さん。委員長は「また高校生しますか」と笑顔で返す。あの"Rouge"総長にそんな軽口を。その態度に、二人の仲が近しいことが窺える。 「驚いたな。北斗と月兎が同じ学校だとは」 「今年の春に"月兎"が編入して来たんだよ」 「………そういうことは早く言え」 「聞かれなかったから」 おぉ、あの黒崎さんにまで。 ニコリ、と笑みを浮かべる委員長に、黒崎さんは頬をひくつかせた。 「………"白薙"?」 そんな二人のやり取りに、晴一さんが呟いた。 勘繰るような物言い。気づいた委員長が「鋭いね」と笑う。 「その勘があれば、もっと早く僕に接触して来ると思ってましたよ。学園内で」 「……一般生徒の名前は覚えてないんだよ。問題でも起こさない限り、な」 「"Rouge"の犬も鼻が利かないようですね。色香にうつつを抜かしているから」 「てめぇ抜かしてんじゃねえよ」 あくまで挑発的な委員長の態度に、言われた晴一さんより早く司が反応した。身体を前に遣る、その動きと共に、委員長と司の間を影が遮る。 「うちの総長に手ェ出すなよ」 「………お前」 「桜庭も西園寺も。気づかないんだもん、お陰で楽だったけど」 その人は、―――学園の制服を着ていた。 茶色く染まった髪を逆立てている。うっすらと浮かべた笑みは、表情と裏腹の獰猛さを孕んでいる。俺はそれを知っている、それに触れたことがある。 それは新しい記憶。 「ども。"blanc"、入谷でっす」 俺にナイフを突きつけた。 イリヤ、と名乗るその先輩は、「昨日ぶり」とひらひら手を振った。忘れるはずもない。 委員長は微動だにしない。まるではなから、入谷先輩が自分を庇うと分かっていたかのように。余裕の笑みに、改めて委員長が"blanc"の総長なのだと再認識させられた。 ふぅ、と息を吐く。 「入谷。また何かしたの?」 「ボスには迷惑掛かんないから大丈夫」 「……お前は、"blanc"の一員としての自覚を持て」 「持ってるよ。今だって庇ったじゃん、只突っ立ってたてめぇとは違ぇんだよ」 入谷先輩は、逆隣の男に笑みを返す。彼も"blanc"のメンバーなのだろう。スキンヘッドの男は、無表情の中に微かな変化を見せる。鋭い視線を向けられても、先輩は気に留めない様子だ。 「何で………委員長が、」 「愚問だよ市川。俺こそが、この場に相応しい」 どういう意味だ? 倉庫はシンと静まり返る。黒崎さんは険しい表情で、赤峰さんはどこかそっけない顔をあさっての方に向けている。只、意識だけは委員長に向いているのが分かる。 「俺は白薙 瑠衣の、血を分けた弟だよ」 "blanc"は、ルイさんの亡くなった後に出来たチームだ。 ルイさんの遺志を告ぎ夜の街を護る、それが"Noir"と"Rouge"なら。 "blanc"はあの日のまま、ルイさんのために在る。彼女の存在が"blanc"を動かす。 空高く上がる白煙。 死者を弔う、追悼の"blanc"。 そしてそれは、 「"blanc"は手加減しない。一刻も早く佐原を見つけ出す」 ―――反撃の狼煙。 [←][→] [戻る] |