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後夜祭
 
 
 「どういうことですか……!!」


 十九時をとうに回った生徒会室。

 紫先輩の机の上には、校章の印刷された――理事会から送られてきた一枚の紙が乗っている。紫先輩に抗議したところでどうにもならない、分かっているからこそ気持ちが逸る。


 「そのままの意味だよ。本件に関する処罰について、生徒会からの見解を提出するより早く理事会から処罰が下った。山田 隆は退学だ」
 「そんな………」


 どうしてこの人が?
 首謀者は他にいたし、ナイフを持った過激な生徒までいた。なのに何でこの人がいち早く、そんな重い罰を受けるんだ。


 「今回の件は僕も重く受け止めている。生徒会は処罰に関して決定権を放棄しよう。いいね? 司」
 「……あぁ」


 窓枠に腰掛け、外を眺めていた司はその目を閉じる。打ち上げ花火が、歓声が挙がる。何だか場違いだ。
 いや、場違いなのは俺たちの方かもしれない。楽しいはずの学園祭でこんなことが起こるなんて。


 「司と響は書類にサインをする準備を。生徒会印は悠仁に押してもらおうかな」


 紫先輩は、感情を押し殺すような事務的な口調で告げる。近江先輩はソファに座り、俯きがちにけれど頷いた。隣に座る大倉先輩は、眉間に皺を寄せている。


 「最低でも謹慎……最悪の場合は退学処分だ。二人とも、いいね?」
 「退学、って……」


 どうして無関係の先輩たちが。
 思わず紫先輩に顔を向けるけれど、先輩は自嘲気味に口角を釣り上げ何も言わない。


 「何でですか!!」
 「アキちゃん……」
 「ファンクラブの暴走を止められなかった。僕ら名義で活動していた彼らの責任を負うのは僕らだ」
 「俺は別にいいですよ! 処分なんてしなくても、」
 「今、処罰しないと。……他の生徒への示しが、つかないから」
 「見せしめってことですか……」
 「そういうことだ」


 震える俺の声に、躊躇いなく言葉が重ねる。


 「司……」
 「とにかく、関係者は全員挙げる。加害者は一人残らず処罰の対象だ。晶、君は被害者なんだから、何も気に病むことはないよ。今日は寮に戻ってゆっくり休んでほしい」
 「先輩!!」
 「僕らを庇う必要性はない」
 「でも!! 俺は結果的に無事だし、怪我もしてないし!! 何も先輩が処罰されることは、」
 「出てんだろ、怪我人が」


 静かな声だった。

 その言葉が指し示すのは、木崎なのだろう。それなら尚更、俺と木崎が許せば済む問題じゃないか。
 確かに何らかの処分は下すべきかもしれない。けれど退学なんて大げさだ。それに責任を取るのは実行犯だけでいい。紫先輩に近江先輩や司が責任を取る必要なんてない。

 納得のいかない俺に、司はため息を吐いた。―――まるで俺に対する苛立ちを隠しきれないかのように。


 「分かれよ、晶」
 「でも……」


 分からない。分からない、どうして。
 言葉に出来ないもどかしさを吐き出すより早く、司が告げる。

 古賀学園生徒会長。西園寺グループの次期跡取り。
 この男は、そんな重い肩書きに相応しい。人の上に立つ人間だ。

 ほらこうして、知るほどに離れていく。


 「大人になれ」



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