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--06
 
 
 いかにも不良な先輩方、六人。手には何も持っていないみたいだけど、却ってその方が不安を煽る。ナイフやスタンガンを出されたら、さすがに厳しい。


 「………今なら厳重注意だけで許してやるが?」


 木崎がため息と一緒に吐き捨てると、俺の目の前にいた先輩がニヤニヤと笑った。


 「デカイ口叩くじゃねぇか」
 「逆らうなら全員処罰対象だ。今なら許す」
 「やっぱ風紀は邪魔だな」


 顔を歪めて舌打ちをし、木崎を睨みつけた。反する木崎は毅然とした態度で言い放つ。
 向き合うそいつを、「まぁ落ち着けよ」と一人の先輩が制した。こげ茶色の髪をワックスで逆立てた、あいつがリーダーらしい。一瞬怯んだその先輩は、リーダー格の先輩を「うぜぇ」と押しのける。そして今一度木崎に向き直り、


 「必要なのは市川 晶だけだ。お前は要らな――…」


 一瞬だった。

 タン、と廊下を蹴る音。それと同時に、木崎の身体が前に動く。何となく嫌な気持ちにさせられる笑顔を浮かべた先輩の反応速度を上回り、腹に拳を埋める。


 「てめぇ!」
 「こっちから止めろ!!」


 木崎の速さにぽかんと口を開けていた先輩たちが、一斉に動き出す。
 四対一。
 木崎の身のこなしは、軽い。型が綺麗に決まる。だからこそ、喧嘩慣れしている先輩には敵わないかもしれない。


 「きさ、」
 「暴力は振るわないんだっけ? 月兎」


 止めなきゃ。
 そう踏み出した足の前に、突っかけるように脚を差し出される。

 見れば、リーダーだと俺の判断した先輩がニッコリと笑った。
 この人はヤバい。他のやつらとは、格が違う。


 「………知ってるんですか」
 「"Rouge"と"Noir"の抗争を止めたガキだろ? ま、あいつらは知らないみてぇだけどな」
 「………」
 「道理で強ぇわけだ。本気出されたら、六人束になったくらいじゃ敵わないだろーなー」


 赤か、黒か。
 ―――いや、この二チームに所属していなくても、俺のことを知ってる人はいるだろう。大体この人は、赤でも黒でもないオーラがある。物怖じしない、そんなオーラが。

 俺の怯えを感じ取ったのか、先輩はまたニッコリと笑う。


 「こん中じゃ知ってるのは俺だけだ。だから風紀と一緒にいたのは好都合だな」
 「なに、」
 「兎を捕えるための囮だ」


 "囮"?

 ドサリ、と人の倒れる音がした。肉が地面に叩きつけられる音。あぁもう、この音は聞きたくないのに。
 見れば、木崎が廊下に組み敷かれていた。


 「やめッ……!!」
 「こっちもさ、金貰ってんだよ」


 助けなきゃ。
 そう思う俺の前に、スッと差し出される無機質な光。本当、何でここまでするんだよ。
 首筋にそれが当てられる。ひやりと低いその温度に肌が粟立つ。怯えてると勘違いしたのか、先輩の笑顔が深くなる。


 「……ナイフ、ですか」
 「惚れた腫れたの恋愛沙汰に金払うんだから、金持ちってスゲェよな。俺には分かんねぇわ」


 恋愛?
 こいつらは"月兎"に用があるんじゃないのか。じゃあ何で、なんて考えてる暇はない。とにかく木崎は助けなくちゃいけない。


 「これだろ? 風紀の」
 「二年の美作と上ノ宮が作ったらしいからな、何入ってるかわかんねぇし」


 床にうつ伏せに倒れる木崎の身体を一人が押さえつけ、一人が頭を掴んで押しつける。
 息を切らして、これ、と指先に持つのは蛇だった。木崎の右耳にいつも巻き付く蛇。晴一さんと木崎と繋ぐ線。


 「じゃ、これはサヨーナラ、ってわけで」


 放り投げると、カコン、と廊下に落ちる。履き潰された革靴が乗り、ぐっと力がこもるのが遠目にも分かる。

 金属の弾ける音がした。




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あきゅろす。
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