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「そういうわけで、晶がいると助かるんだ。建前も出来るし」
「建前?」
「女性客の相手をしなくてもいい建前」
「あぁ、そういうことですか」
「それに僕自身も嬉しいしね」
琥珀色の瞳が細まり、ニコリと笑って頭を撫でる。視界の端で、俺と同い年くらいの女の子がボッと頬を染めるのが見えた。
うぅん、木崎もなかなか戻って来ないしなあ。人助けだと思って少し寄って行くのもいいかもしれない。男一人で入るのも、紫先輩がいてくれるならそれほど抵抗もない。
「わー。紫ってば王子様ー。抱いてー」
棒読みの、野次るような声が聞こえた。
「………古賀会長」
「もう会長じゃねえっての」
さっき俺の顔をぺたぺた触っておいて、全く悪びれた様子もない前年度生徒会長。古賀 帝が紫先輩の背後に立っていた。
「お久しぶりです、古賀先輩」
うわあ、久しぶりに見た腹黒スマイル。
一寸の隙もない笑みで以て古賀 帝に接する紫先輩。けれどやはり前年度生徒会長、関わりがある分紫先輩の本性は知っているらしい。
「キモっ。お前その笑い方止めろよ」
「本来なら笑顔を向ける必要もないんですけどね」
「あ゙? ……つーかお前雰囲気変わった? あ、カラコン外した?」
笑顔を張りつけていた紫先輩の顔が、驚きに満ちる。大きく見開いた眼に満足したらしい古賀 帝は、ニッと笑った。
「あんまナメんなよ。そんくらい気づくっつーの」
そして、なー?と笑顔で俺に話を振る。そんなこと言われても、何て返せばいいんだ。「ねー♪」とでも言えばいいのか。満足か。
「んじゃ、司に宜しく。またなー、ちびっこ」
「ち……!」
人の気にしていることを!
古賀 帝は再び廊下に立つ女の人たちの視線を集め、颯爽と立ち去って行く。途中一度振り返り、悪戯に成功した悪ガキのような笑顔を見せる。何だろう、と思って彼の視線を辿れば、そこには複雑な表情の木崎が立っていた。
「木崎……今の、知り合い?」
「友人の父の弟の娘の従兄弟の弟だ」
「……あ、そう」
要約して「知り合い」だと解釈した俺は、分かったようなふりをして曖昧な返事をした。
「こんにちは、木崎君」
「こんにちは副会長」
「今丁度晶と話してて………木崎君も入らない? 席空けるよ」
紫先輩は第三学年Sクラスの教室を指す。
「いえ、僕は……」
「今なら桜庭もいるけど」
「え」
晴一さん?
晴一さんは確か、Eクラスのはずだ。どうしてSクラスの教室にいるんだろう。
俺の表情から考えを読み取ったらしい、紫先輩は呆れたようにため息を吐いた。
「駒井がね。燕……Eクラスに燕 蓮といういけ好かない男がいるんだけど、彼を使ってEクラスを唆しSクラスに引き込んだらしいね。まあ駒井の狙いはEクラスというよりは桜庭なんだろうけど……って、木崎君?」
それまで黙って紫先輩の話を聞いていた木崎は、するりと先輩の脇を抜けていく。無言のままドアの取っ手を掴み、ごく自然な動作でそれを引く。
木崎を吸い込み、重厚なドアはパタンと閉じた。
「………」
「………」
俺と紫先輩は顔を見合わせ、教室の中へと木崎に続いた。
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