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「それは大丈夫だと思います」
「何故だ?」
「市川は生徒会に入りますから」
人手が足りないと言って、西園寺会長は月兎に似ている僕を、"月兎の代わりとして"生徒会に誘い込んだ。
そこに本物の月兎が現れたのだから、西園寺会長は是が非でも市川を生徒会に入れるだろう。市川に逃げられないためにも。
親衛隊が「生徒会親衛隊」という名目である以上、生徒会に入った市川に、そう簡単には手を出せないと踏んだ。
勿論、希望的観測である。
「しかし学食はひどい騒ぎだったねえ」
僕の隣に座ったチカ先輩は呑気に言った。どうやらモニターで観察していたらしい。
あの後は西園寺会長が逃げようとする市川を捕獲、連れ立っていた生徒会メンバー全員で市川を生徒会室に連行するという事態になっていたそうだ。
僕としては騒ぎが大きいほどに有難い。
市川の容姿をなるべく多くの生徒に晒せば、いずれファンクラブでも出来るだろう。万が一親衛隊から嫌がらせを受けた場合は、守ってくれるかもしれない。
「想像以上だ。派手にやらかしたな、木崎」
桐生先輩は苦笑した。
僕は一度巻き込まれた以上、自分のやり方で解決させたいのである。
「よし、じゃあパーッとやろう!」
「何をだよ」
「キサキ君風紀委員になって初めての事件解決おめでとうパーティ」
「長ぇよ。つーか木崎は風紀委員じゃ……」
その時、午後の授業を知らせるチャイムが鳴った。
ぴたりと室内の動きが止まる。
「そういえば風紀委員は授業も一部免除になるな」
桐生先輩がニヤリと笑った。
「よしっ! 晴一、ケーキ出して!」
「昼食もまだだったな。サンドイッチでも作ってくれ」
「てめぇらは手伝え!」
面倒臭いしメリットなんてない。
しかし長い人生、こんな遠回りも悪くないのではないかと思えていて。
「………ふふっ」
わけもなく可笑しくて、思わず笑みが溢れた。
すると、室内の空気がピシリと固まった。
「え」
気を悪くしただろうか。
しかしもう引っ込められないので仕方ない。
どうしようかな、と思っていると、
「……キサキ君可愛いっ!」
「はぁ?」
何がだ。
と言う間もなく、チカ先輩に抱きつかれてしまった。
「もっかい笑ってご覧!」
「え。無理です表情筋固いんで」
「ほら君なら出来る!」
「………桜庭、顔が赤いぞ」
「てめぇに言われたくねぇよ!」
「ちょ、痛い痛いです引っ張らないで」
「チカ、あまり木崎に無理強いをするな」
「千切れます千切れます」
「アンパンマン、新しい顔よ!」
「引っ張ってんのてめぇだろ!!」
自ら面倒ごとに巻き込まれる、そんな幸せもあるのかもしれない。
窓の外を、桜の花弁が舞っていた。
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