[携帯モード] [URL送信]
--03
 
 
 「それは大丈夫だと思います」
 「何故だ?」
 「市川は生徒会に入りますから」


 人手が足りないと言って、西園寺会長は月兎に似ている僕を、"月兎の代わりとして"生徒会に誘い込んだ。
 そこに本物の月兎が現れたのだから、西園寺会長は是が非でも市川を生徒会に入れるだろう。市川に逃げられないためにも。

 親衛隊が「生徒会親衛隊」という名目である以上、生徒会に入った市川に、そう簡単には手を出せないと踏んだ。
 勿論、希望的観測である。


 「しかし学食はひどい騒ぎだったねえ」


 僕の隣に座ったチカ先輩は呑気に言った。どうやらモニターで観察していたらしい。

 あの後は西園寺会長が逃げようとする市川を捕獲、連れ立っていた生徒会メンバー全員で市川を生徒会室に連行するという事態になっていたそうだ。


 僕としては騒ぎが大きいほどに有難い。
 市川の容姿をなるべく多くの生徒に晒せば、いずれファンクラブでも出来るだろう。万が一親衛隊から嫌がらせを受けた場合は、守ってくれるかもしれない。


 「想像以上だ。派手にやらかしたな、木崎」


 桐生先輩は苦笑した。

 僕は一度巻き込まれた以上、自分のやり方で解決させたいのである。


 「よし、じゃあパーッとやろう!」
 「何をだよ」
 「キサキ君風紀委員になって初めての事件解決おめでとうパーティ」
 「長ぇよ。つーか木崎は風紀委員じゃ……」


 その時、午後の授業を知らせるチャイムが鳴った。

 ぴたりと室内の動きが止まる。


 「そういえば風紀委員は授業も一部免除になるな」


 桐生先輩がニヤリと笑った。


 「よしっ! 晴一、ケーキ出して!」
 「昼食もまだだったな。サンドイッチでも作ってくれ」
 「てめぇらは手伝え!」


 面倒臭いしメリットなんてない。
 しかし長い人生、こんな遠回りも悪くないのではないかと思えていて。


 「………ふふっ」


 わけもなく可笑しくて、思わず笑みが溢れた。

 すると、室内の空気がピシリと固まった。


 「え」


 気を悪くしただろうか。
 しかしもう引っ込められないので仕方ない。

 どうしようかな、と思っていると、


 「……キサキ君可愛いっ!」
 「はぁ?」


 何がだ。
 と言う間もなく、チカ先輩に抱きつかれてしまった。


 「もっかい笑ってご覧!」
 「え。無理です表情筋固いんで」
 「ほら君なら出来る!」
 「………桜庭、顔が赤いぞ」
 「てめぇに言われたくねぇよ!」
 「ちょ、痛い痛いです引っ張らないで」
 「チカ、あまり木崎に無理強いをするな」
 「千切れます千切れます」
 「アンパンマン、新しい顔よ!」
 「引っ張ってんのてめぇだろ!!」


 自ら面倒ごとに巻き込まれる、そんな幸せもあるのかもしれない。

 窓の外を、桜の花弁が舞っていた。





[←][→]

15/17ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!