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一方的にペラペラと話し出すその人に郷を煮やして、俺は叫んだ。
「誰なんですか!」
誰か知り合いと勘違いしているらしい。それだけなら「間違えてますよ」で済んだけれど、俺の話も聞かないでいきなり顔をぺたぺた触られちゃ黙ってもいられない。
俺が叫ぶと、その人は少し眉を顰めた。
「は? 何それギャグ?」
「だーかーらー……」
「ぁ? つーかお前……」
その表情が、突如フェードアウトした。
「………えぇええええ!?」
左へ数メートル吹っ飛んだその人は、廊下に倒れている。左に飛んだということは右から衝撃があったということで、俺は視線をそちらに遣った。
「き、木崎……?」
「悪いもう少し待っていてくれ」
珍しく息を切らした木崎は、一目散に倒れている人に駆け寄った。無理やりその身体を起こし、ずるずると廊下の影に引きずっていく。
一連の流れがあまりに早すぎて、俺も周りの野次馬も、ぽかんと口を開けるしかない。
「晶?」
後ろから名前を呼ばれ、振り向いた。
そこにはボトルを手にきょとんと立ち尽くす、紫先輩の姿が。
「先輩!」
「廊下が騒がしかったから見に来たんだけど……」
紫先輩はダークスーツを身に纏っている。
先輩は確かにかっこいい。でも、そのかっこよさは顔立ちというよりはむしろ、内面の気品から溢れ出るものだった。勿論顔立ちは異国の王子様のように綺麗なのだけれど、だからこそこんなホストみたいな格好をすると、どうもちぐはぐに見えた。
「………もしかして彼に何かされた?」
その紫先輩が、はっと息を呑む。
「"彼"?」
「彼」
空いた左手で、あそこ、と指を差す。木崎と失礼な人が消えていった廊下の影だ。紫先輩もさっきの出来事を見ていたらしい。
「されたっていうか、人違いされたというか」
「あぁ、そう」
今度は打って変わってほっと息を吐く。
「知り合いなんですか?」
俺が聞くと紫先輩は「知り合いも何も」と言葉を紡いだ。
「彼は前年度の生徒会長だよ」
「………」
去年の生徒会長については、色々と聞いていた。
俺様だったとか暴君だったとか、自分勝手で校内風紀を乱しまくっていたとか、とにかくいい噂だけは聞いたことがない。
あぁそう、あれが。
俺は何だか妙に納得してしまった。何というか、言葉に出来ないけれど、納得が出来た。
「それよりどうしたの? 遊びに来たの?」
「いやー……木崎とここで待ち合わせしてたんですけど、その木崎がまたどっかに行っちゃって」
「中で待つ?」
「大丈夫です。それにしても凄い混んでますね」
「………駒井の客寄せの結果だよ」
紫先輩は引き攣った笑みで答える。どういう方法でここまで人を集めたのかは、聞かない方がいいだろう。
「僕までこんなスーツを着せられて。女性の相手は苦手なんだよ」
「……意外ですね」
「こちらのことをあれこれ知りたがる。そのくせ自分のことばかり話すからね」
肩を竦め盛大な溜息を吐く。この様子だと、朝から相当苦労したようだ。
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