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--02
 
 
 「短い協定だったな。無事を祈る」
 「市川ー?」


 木崎の声に重なって、ドンドンとドアを叩く音がした。逃げられないうえに怒られるなんて、最悪だ。どちらか一つがいい、ていうか怒られるのは嫌だ。
 わたわたと扉、木崎と交互に見れば、木崎はガラッと窓を開けたところだった。ひゅうと冷たい風が、半袖のメイド服には寒々しい。

 窓枠に、足を掛ける。まさか、なんて思ったりもしたけど、木崎はやるときはやる。それがたとえ俺の想像を越えていても。


 「じゃあ僕は行く―――…」
 「俺も行く!!」
 「ッ!?」


 背後から聞こえる、ドアノブを捻る音で決心した。
 俺は飛び降りようとする木崎の腰に抱きついた。


 ◆


 その結果がこれだ。


 「阿呆」
 「うるさいよ!」


 我ながら理不尽だと思いつつ言い返す。

 中庭に着地した俺たちは、そこから一番近いトイレまで猛ダッシュで駆け抜けた。開いた窓を見下ろせば俺たちの姿は歴然で、とにかくその場から離れようという一心………ではなくて、一刻も早くメイド服を脱ぎたいという原始の欲求だった。女装なんかしてられない。


 「だって木崎が一人で逃げようとするから!」


 そんな俺がメイド服から制服にドレスアップしてトイレの個室から出るなり、木崎は俺をなじった。謝れない俺が無茶苦茶な理論展開を始めると、「風紀の仕事がある」と一蹴されてしまう。
 木崎は屈んでいた姿勢を正し、耳に付けたイヤーカーフを二三度弄る。耳に掛かる髪から時折覗いてキラリと光る。あれは一体何なんだろう。一度聞こうとしたとき、はぐらかされてまともな答えはくれなかった。


 「とりあえず僕は先に行く場所がある」


 パン、とズボンの裾を軽く払う。


 「俺も行く」
 「風紀関連だ」


 その響きには、何となく突き放すような雰囲気があった。
 三のSで待ち合わせ、と言われて、俺は曖昧に頷く。第三学年のSクラスは、木崎と俺が共通に行くだろう場所。そこで合流するのは効率のいい判断だ。けれど俺はなるべく司に会いたくない。


 「木崎、やっぱり………」


 別の場所で、と顔を上げたとき、そこに木崎の姿はなかった。
 慌ててトイレから出れば、遥か遠くにその後ろ姿が見える。人ごみにも物怖じしないオーラは周囲を惹き付け、そこだけ異空間のようにも思えた。

 今から追いかけても、きっと追いつけないだろう。
 ハァ、とため息を吐いた。第三学年のクラスには、紫先輩も駒井先輩もいる。駒井先輩は助けてくれない気がしたけれど、紫先輩は司との間に入ってくれるだろう。

 俺は諦め、第三学年Sクラスの教室へと向かった。





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あきゅろす。
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