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 「え……一緒に写真とかじゃなくてですか?」
 「はい! 二人の絡みを是非!」


 すでにデジカメを構えた女の人の熱意に、若干身を引いた。一緒に来たらしい、向かい側に座る女の人の制止は聞こえないらしい。
 さあどうしようと顔を見合わせると、その間にすっと黒い影が入る。


 「委員長?」


 ウェイター風の制服を纏った委員長は、トレーで俺たちの間に割って入った。ニッコリと笑いそれぞれの顔を見遣る。


 「……おい」
 「お客様、キャストとの撮影には別途料金戴いてますが、宜しいですか?」
 「はい! それはもう」


 ちょっと待て、別料金って何だそれ。
 デジカメを構えた女の人は、委員長の言葉にパッと顔を明るくさせた。お金を取られることにはあまり疑問を感じないらしい。


 「あ、私もお願いします!」
 「じゃあ次こっちで!」
 「ツーショット大丈夫ですか!」
 「絡みとか大丈夫ですか!」


 それに続いて、待ってましたと言わんばかりに声があがる。
 それぞれのテーブルを笑顔で回る委員長に、頬が引き攣った。その視線に気づいたらしい委員長はふと振り向くと、笑顔を一層深くさせ。


 「焼肉。頑張れよ、木崎」


 隣を見れば、どす黒いオーラを放つ木崎の姿があった。


 ◆


 会議室の入口に立て掛けられたメニューに、「メイドさんの写真撮影♪」が急遽書き足された。メイドさん「と」の、でないところに何かもやもやしたものを感じる。


 「えー! やっぱり王道学園ってあるんだ!」


 ソファ席に座るこちらのお客さん、何と高校をサボって山奥の男子校までやって来たらしい。改めて考えてみれば今日は平日だというのに、学生だろうという見た目の人も少なくない。
 制服姿の女の子は「学園での生活を教えてほしい!」と俺を指名(五〇〇円)し、俺はその女の子に春から今までの生活を事細かに語っている。


 「どこまでも王道だねー! もしかして生徒会と風紀って仲悪かったり?」
 「はぁ………あ、一部は仲良いですよ」
 「そこ詳しく!」
 「司………生徒会長と俺の友達とか、あと俺も風紀の先輩とは話します、その友達繋がりで」
 「え? 生徒会長×編入生じゃないの?」
 「…………よく分かんないですが、俺も俺の友達も編入生です」
 「脇役主人公に複数CPキタコレ!!」


 今にも立ち上がりそうな勢いでガッツポーズを決めた女の子に、俺含む周りの人が身を引いた。


 「そっちの脇役主人公について!詳しく!!」


 ハァハァと息を荒くする女の子に、そろそろ不安になってきた。
 助けを求めてちらりと目線を移すと、立てた人差し指をくるくると回す有坂が見える。俺がこの女の子に付きっきりだから、ホールが回らないらしい。「巻け」「早く切り上げろ」というサインだろうと、有坂の表情で判断した。
 でも五〇〇円貰ってるし、ここで切り上げるのは可哀想な気がする。せめて五〇〇円分は楽しんで貰わなくちゃいけないよな。

 徐々に表情が険しくなる有坂を視界の端で確認しつつ、さあどうしようと頭を回転させる。
 と、そこに一つの影が落ちた。


 「お客様、当学園の公式CP本、「こががく!」はいかがですか?」


 さっと入って来たのは、報道部の相良だった。
 言ってることはまったく理解出来なかったけど、女の子の目はさっきまでと違う輝きを放っている。


 「同人!?」
 「はい、報道部の調査を元に漫画研究会腐男子部のメンバーが完成させました。王道の生徒会から風紀、教師モノに生徒×調理師など……」
 「買います! それ買います!!!」


 おい、商売するなよ。
 どうやら「ふだん支部」が作った漫画を売りつけたらしい。止めようかと思ったけれど、女の子が嬉しそうだったからこれはこれでいいんだろう。相良は雑誌サイズの本に隠し、ぱたぱたと手を振る。この場を離れろという意味らしい。おぉ、助けてくれたのか。

 軽く礼をして、女の子に気付かれないようにそっと席を立つ……という気遣いは無用だったらしく、相良の周りにはホールにいた多くの女の人が群がっている。おい、それ何の本なんだ。

 一部のみが急に騒がしくなった会議室。
 ふと見渡せば、木崎の姿がなかった。





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