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はじまりのおわり
 
 
 結局あの後、市川は猛ダッシュで部屋を出て行ってしまった。
 仕方がないので翌日の朝、僕は南校舎三階の迎賓室に足を運んだ。

 風紀委員は全員揃っている。
 書類の整理があるという。朝からご苦労様です、と僕は労う。

 僕は自分の推理を裏付けるため、確信を持つために二、三質問をした。
 主に桜庭先輩が答えてくれた。「何かあるのか?」という桐生先輩の問いに、僕は悪戯っぽく笑みを返した。


 市川は授業を休むかと思ったが、ちゃんと出席していた。


 隣の席というのは本当だったらしい。
 ふやけたワカメのような少年は、僕の隣で机に顔を伏せていた。

 しかし授業中、時折右頬に視線を感じた。
 変装のことは黙っておきたいのだろう、少し怯えているように思えた。


 昼休み、市川を昼食に誘ってみた。


 市川は見えている口元で笑うと、僕の後をついてきた。
 昼食の誘いを友好の証だとでも思ったのだろうか、市川はかなり油断している。

 僕は眼鏡を外した。
 今日はコンタクトを付けていた。


 「木崎、どれ頼む?」


 混み合う学食。
 少々思案し、カレーライスを選んだ。

 僕が席を取っておくから、市川が僕の分も持ってきてくれ。

 ごく自然な流れで言った。
 水は大きいグラスでと頼む。


 なるべく中央、つまりなるべく目立つ位置に席を取った。


 「お待たせ!」


 暫くして市川がトレーを抱えて戻ってきた。
 水はビール瓶くらいの大きさのグラスに注がれている。


 「すげぇ混んでるな」
 「あぁ」
 「あれ、眼鏡は?」
 「食べるとき邪魔だから外した」


 嘘である。

 が、市川は信じたらしく「曇るよなー」と言いながらオムライスにスプーンを落とした。


 『月兎は、西園寺会長から逃げていませんでしたか?』


 僕が知りたかったのは、市川の変装の理由だった。


 「昨日までは俺、一人で飯食ってたんだ」


 市川はケチャップをスプーンで慣らしながら言った。


 「でも、木崎みたいなダチが出来たから、よかった」


 やっぱ飯は一人より二人だよな!という市川。
 僕はカレーがあまり辛くないことに安堵していた。

 半分ほど食事を終えた頃、学食の入口付近で、男子校とは思えない黄色い声がした。
 どうやら生徒会が現れたらしい。生徒の間を縫うように歩く西園寺会長にはオーラがあって、僕はすぐに見つけることが出来た。

 西園寺会長も同じく僕を見つけたらしい。
 視線が合った。

 会長はニヤリと笑うと、こちらに向かって歩き出した。
 僕が眼鏡を外したのは、自分の容姿を「月兎」に近づけるため、つまり"西園寺会長に見つけてもらう"ためだ。


 あぁ、友よ。
 僕は心の中で合掌をし、


 グラスに入った水を、市川の頭目掛けて勢いよくぶちまけた。




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あきゅろす。
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