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普通に会話してるけど、王子様は笑顔の張り付いた表情で俺に迫ってくるし、俺はそれを防ぐために必死で両腕に力を入れている。
本気出していい? 蹴るよ?蹴っちゃうよ?
「いい加減にしろっつー………」
「何をしてるんだ」
声が響いた。
王子様は振り返り、俺は腕の力を抜く。
背中越しに見ると、そこにはもう一つの人形が立っていた。
「………環」
人間とは思えないくらいに真っ白に透き通った肌。澄んだ碧色の眼。キラキラと光る金色の髪。全て目の前の王子様とそっくりだけど、彼の場合は全てが造り出されたもののようだ。
見てはいけないものを見てしまったみたいな。そんな精巧な美しさに、俺は目を奪われる。
「………この子は渡さないよ」
「何だそれは。ただのワカメじゃないか」
凛とした声が、さらりと言い切った。
おい、ただのワカメって何だ。確かにこの黒髪は失敗したかと思ったけど、ただのワカメは無いだろ。ただのワカメは。
「あぁ、あの特待生か。入試は満点でも、容姿は零点だな」
「この子は満点じゃない方の特待生だ。環に会わせるには及ばないから、さっさと消えてくれるかな」
「満点じゃない方? ………ふぅん。"こっちも"か」
「………何?」
ややこしいな、と一人納得したように言うその人に、王子様はチッと舌打ちをした。
それとほぼ同時に、チンと機械音が鳴る。この場の緊張感が少し解けたような気がした。
「ようやくか」
その音は到着音だったらしい、エレベーターのドアが開いた。いつの間に呼んだのだろう。
王子様は俺の肩を掴むと、強引に俺の身体を反転させた。
「う、わっ!?」
そのままドン、と背中を押され、前につんのめる。
顔面から落ちたのは、エレベーターの中。
「環に会わせるわけにはいかないから」
またね、とひらひら手を振る王子様。
言ってる意味は分からないし、二人が誰だかも分からないし。
まったくついていけない。そんな俺を嘲うように、エレベーターのドアは閉ざされた。
◆
赤い絨毯。シャンデリア。
くすんだ木目のデスクには、アンティークな室内に似合わない、「理事長」と書かれた円錐のプリズムが置かれている。
「遅かったね」
古賀学園理事長、古賀 譲二。
細身のスーツを着こなしたそいつは、椅子に座ったまま素っ気なく言った。
「……すいません」
「私もあまり時間がないからね。これ以上遅れたらどうしようかと思ったよ」
心のこもってない、薄っぺらな笑顔。指摘すれば厄介なことになる。それはほんの少し前、王子様の件で学習したばっかりだ。
でも、こいつのそれはさっきよりもタチが悪い。本能で分かる、あんな可愛いもんじゃない。
こいつが被ってる皮は一枚や二枚じゃない。剥いだところでろくなことはない。
「手短に話そう。君をここに呼んだのは、編入学に当たっての資料を渡すためだ」
分厚い封筒が、俺と理事長の間にある机に投げ出された。
取れ、と言うことなんだろう。俺は黙ってグレーの封筒を掴んだ。
「入寮許可書から授業カリキュラムの説明、とにかく学園に必要なもの一式だ。教科書と制服は寮の部屋に届いている。……あぁ、封筒の中にルームキーも入っている。学園内ではクレジットカード代わりになるから、くれぐれも失くさないように。引き落とし先には君の父上の口座が指定されているから、気にせず使うといい」
そこまでを一気に言うと、「質問は?」と初めてこっちを向いた。
――嫌な奴。
最初に会ったときからそうだった。
『―――古賀学園への入学許可が降りている』
「あの、」
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