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 「あ、アキちゃんおかえりー!」


 開いたドアの前には近江先輩がいて、にぱっと明るい笑顔で出迎えられた。


 「あれ? たーくん一緒?」
 「ひーびー! ただいまー」
 「おかえりたーくん!」


 それまで持っていた書類を全部床に置き、駒井先輩は近江先輩に抱きついた。きょとんとしていた近江先輩も流石の切り替えの早さで、きゃっきゃと駒井先輩を抱きしめ返す。
 思った以上に仲良しな二人に驚きつつ、「持つ」と手を差し出す大倉先輩に礼を言う。とは言っても、俺は駒井先輩が床に置いた書類を運ばなくてはいけないから、意味がないんだけど。


 「お疲れ様、晶」
 「あ、ありがとうございます」


 ひょいと紫先輩にそれを抱えられ、俺は再びお礼を言った。
 ちらりとデスクの方を見る。司はパソコン相手にしかめっ面をして、何やら取り込み中のようだった。


 「お茶は? 丁度淹れようとしてたんだ」
 「あ、俺やります」
 「いいよ、帰ってきたばっかりなんだから。新しいフレーバーを買ってみたんだけど、それでいいかな」
 「はい、じゃあお願いします」


 紫先輩はニッコリと笑って、奥の簡易キッチンへと向かう。
 ふと見ると、駒井先輩が近江先輩を抱き上げてくるくる回っているところだった。きゃーきゃーと騒ぐ姿はまるで兄弟、超解釈で親子にすら見える。


 「てめぇらいい加減にしろっつの! 騒ぐな出てけ!!」
 「えー? つーくん冷たぁい」
 「ねー、冷たいねーひび」
 「ねー」
 「殺すぞマジで」


 郷を煮やしたらしい司の、手にしていたシャーペンが折れた。握力で折れた。ヒッと喉を鳴らすと、駒井先輩は「ほーら晶が怯えてるー」と更なる燃料を投下する。もうやめてくれ。


 「ほら、お茶入ったから響も手伝って。駒井はおとなしくするか帰るかどっちかにして」


 見かねた紫先輩がトレーをテーブルに置きながら呆れたように言うと、意外にも近江先輩は「はぁーい!」と良い子の返事をした。駒井先輩も大人しくすることを決めたらしく、「俺の分ある?」と応接セットへ向かう。

 紫先輩………おかあさん?

 今日のお茶菓子はカントリークッキーだった。近江先輩はてきぱきとカップを並べ、「お砂糖が無いよぉ」とキッチンへ駈けて行く。


 「………凄いですね、紫先輩」
 「二年も一緒だとね。慣れるよ」


 悠仁も手伝って、と声を掛けると、大倉先輩はこくこくと頷きティースプーンをソーサーに乗せていく。俺も何か手伝えないかと見渡していると、「いいよ、気にしないで」と紫先輩がポットを揺らした。


 「ほら司も、休憩にしない?」


 ストレーナーをカップに乗せ、それを移動させながらお茶を注いでいく。ふわりと、甘い香りが鼻孔をついた。


 「………あぁ」
 「たまには休憩しなきゃ。人相悪いよ」
 「うるせぇ」


 司は乱暴に椅子を蹴りながら立ち上がると、俺の向かい側にどかりと座り込んだ。はーっと深いため息を吐く。司も司で、相当疲れているらしい。


 「やったー! キャラメルティー?」


 シュガーポットを抱えて戻って来た近江先輩は、ふにゃりと笑った。「じゃあいっつもより砂糖多めにしよー」とカップを引き寄せる近江先輩に、隣に座る司と紫先輩が顔を引き攣らせる。


 「ひびー、俺にも入れてー」
 「いいよぉ! いくつ?」
 「んー、一個でいいわ」


 笑顔の近江先輩に、笑顔で返す駒井先輩。隣に座る先輩をまじまじと見ると、「何?」とにっこり返された。むむ、なかなかのやり手だ。




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あきゅろす。
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