ゆらゆら
放課後は毎日、実行委員会の集まりがある。何故か俺は生徒会役員の中から「実行委員会議担当」に任命されてしまったらしく、会議に参加するのは必ず俺になってしまった。まあ司も紫先輩も近江先輩も大倉先輩も忙しなく動いてるから、一番下っ端の俺が駆り出されるのも仕方ないことかもしれない。
一番下っ端、と言ってもお飾りで呼ばれているのではなくて、いち生徒会役員として場に立つことを求められている。会議の場で即決しなくてはならない事案は、俺がイエスと首を縦に振るか否かで決定する。「ちょっと分かんないんで生徒会室行って聞いてきます」なんて言おうものなら、俺は視線で射て殺されるかもしれない。
「これが各クラスの出店簿と教室割り当て、あと各部活への要項は生徒会から部活動会議で配布して下さい」
「ゔ………」
どさっと紙の束を目の前に置かれ、俺は詰まった。
実行委員会副委員長・第三学年Gクラスの阿部先輩は、そんな俺に片眉を吊り上げる。
「何か文句でも?」
「アリマセン」
随分と尊大な阿部先輩の態度に、反抗出来ないのは理由がある。阿部先輩は副委員長という役職を冠してはいるものの、それは単に「実行委員長の尻拭い」とか「実行委員長のパシリ」とか、そういう役割を担っている。司に並ぶのではないかと思わせる暴君俺様、駒井ゴーイングマイウェイ先輩は、学園のあちこちで問題を勃発させながら学園祭準備を進め、阿部先輩はその後ろを走りながら全力で頭を下げている。
そんな阿部先輩に同情する俺は、彼のストレスの捌け口になる義務があるのだ。いや、そうでもしなくちゃ可哀想すぎる。
「北校舎と西校舎に、中央校舎の一部がクラスの模擬店、南は各部活動の展示。中央校舎は学食の開放と、授業相談や学校見学の案内用インフォメーションを設置します」
「はぁ……」
もうこれは、生徒会なんて必要ないんじゃ。
「そんなことありませんよ。これらを整理して教員に報告するのは生徒会の役割ですから」
「あはははははは」
何故俺の心を読んだんだ。
とにかくお願いします、と阿部先輩は眼の下に隈をつくり、ふらふらと小会議室を出て行った。「阿部ちゃんおっつー」と手を振る駒井先輩を、ギロリと睨むのも忘れない。
「………駒井先輩は元気なんですね」
もう倒れるんじゃないかというくらいに疲れ切った阿部先輩の背中を見送り、俺は呟く。
実行委員会の他の生徒も、会議中に欠伸を噛み殺したり船を漕いだりと、とにかく疲労が見えている。しかし駒井先輩は容赦なく、欠伸を抑えきれなかった生徒の口に向かってチョークを投げる。連日の会議に学園祭準備、まったく疲れを見せないのは駒井先輩と、うちの委員長くらいだ。
俺の言葉に、駒井先輩はケタケタと笑った。
「めっちゃ元気。一般寮には俺に抱かれたいニャンコが沢山いるから」
「………」
その言葉が示すものに気づいてしまい、俺はあえて突っ込まないでおくことにした。突っ込んだら負けだ。
「市川こそ意外と強かだね」
書類を担いで生徒会室へ向かう道すがら、駒井先輩は俺の頬をぷにっと突きながら言う。両手が塞がるほど荷物があるというのに人差し指を動かす根性に、俺は的外れな感心をした。
「そうですか?」
「んー。体力ある? それとも神経図太い?」
「はは、そうかもしれないです」
足をぎゅっと踏みながら笑うと、駒井先輩は目の端に涙を浮かべ「冗談冗談」と弁解をした。少し強く踏みすぎたかな。可哀想だから、許してあげよう。
「ま、生徒会が選ぶくらいだから、体力もあるわな」
そう言って、先輩は到着した生徒会室のドアを右足でスライドさせた。
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